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156 山でオオウバユリ掘りをしていて子どもが行方不明になる話

話者:織田ステノ
訳者:安田千夏


 私は本当に立派な旦那さんで、村人たちは私のことを村長と呼んでいました。妻も働き者で、何をうらやましいと思うこともなく暮らしていました。村人を守り、家々を訪ね歩いて「元気で暮らしているかい。具合が悪ければいいなさい、植物の薬があるからね」といって面倒を見ながら暮らしていました。やがて妻のお腹が大きくなり、男の子を授かりました。村人たちは私の家に集まって来て家の仕事を何でもしてくれ、息子はすこやかに成長し、人を見ると笑うくらいに成長しました。私は妻に「決して山にオオウバユリ掘りに行ったりしてはいけないよ。村人がやってくれるのだから家で息子を大切に守りなさい」といい置いて、山猟に出かけていきました。

 (話者が奥さんに代わって)旦那さんが山猟にいってしまうと、何故か無性にオオウバユリ掘りに山へ行きたくなりました。そこで息子を背負い、ひとりで山へ出かけていきました。オオウバユリの群生地を見つけて採っていると、途中で息子が泣いたので背中から降ろし、乳をやってから私の傍らに寝かせて作業を続けました。オオウバユリの葉を切って切って、ふと息子のほうを見ると、なんと息子を包んでいた着物ごと、その姿が消えてしまっていたのでした。驚いて泣きながら「誰が息子を連れていったの。息子よ、息子よ」といって泣きながら森中を探しまわりましたが、息子の声もしないし姿も全く見えないのでした。地面を叩いて泣きましたが、もう夜になってしまったので、仕方なくひとりで家まで帰って来ました。旦那さんが心配して私を出迎えてくれましたが、息子がいなくなったことを話して「あなたが怒って私を殺しても仕方がないと思って、家に戻りました」といいました。旦那さんは危急の叫び声をあげて私を家に入れ、神に息子の無事を祈りました。朝が来ると村人たちが集まって来て、みんなで息子を探しまわりました。私は家で死んだように横になり、村の奥さんたちが食事を作ってくれても食べることができませんでした。何日もみんなで探し回りましたが見つからず、旦那さんは神に対して抗議をし「私が祈っていた神々には一体目がついているのだろうか。何故私の子がさらわれてしまったというのか」といって怒りました。

 (話者が村長に戻り)妻は食事もせずにとうとう死んでしまい、私も死んでしまおうと思って、宝壇の前で着物の袖を頭から被って寝ていました。村人たちは私を訪ねて来て私に食事をすすめましたが、何も食べずに寝ていて、そのまま何年も経ちました。

 (話者が村長の息子に代わって)一体どうして自分が生まれたのかもわからずに、大きな木の幹にくっついているのが私なのでした。私の体には木の皮が生えておおわれていたので身動きもできませんでしたが、目が見えていたおかげであたりの様子を見ることができていたのでした。ある年、春が来た頃に浜のほうから大きな赤い鳥が飛んで来て私の上を飛び回り、その鳥がこのようにいいました。「息子よ、私のいうことをよく聞きなさい。私はあなたの母なのですが、あなたがさらわれてしまったために悲嘆にくれて死んでしまいました。神の国にいって見ると、木原の婆がおまえをさらって隠してしまっていたことがわかりました。その婆が神々やおまえの父たちの目を盗んで、おまえを木の幹にくっつけて木の皮で隠しておいたのです。おまえの父は神々や村人に守られているので生きていますが、死にかかっています。私は死んでしまいましたが、おまえが何とかして父のところに行けるようにと思いここにやって来ました。木原の婆は神から罰せられて遠くの村にいってしまいました。この木の神が今までおまえを守ってくれ、食事をさせてくれていたのでおまえは生きられたのですよ。おまえはもう大きいのだから力を出して体を動かして、木から体をはがすことができたならば、転がって山を下りていって村の中で一番大きな家、人が集まっている家にいって入って客座に座りなさい。おまえであることがわかったならば父が駆け寄って来てくれることでしょう」と白い(?)大きな鳥が私に向かって話をし、羽で私の顔をなでるようにして、その鳥が流した涙が私の顔にかかり、何度かそうしていてやがて鳥は来た方角に帰っていきました。そこで私の体を動かして、何とかして木から体を剥がし、そして母のいった通りに転がって山を下りていきました。村の真ん中に大きな家があり、人が集まっていましたが、私を見ると恐がって「一体なんだこいつは、村長がもう死にかかっているというのに」といいました。でも頑張って、母さんのいった通りに家に入って土間に転がり込んだところ、家の中で祈っていた男たちは驚いて「一体何者がやって来たのだ。悪い神か化け物ではないのか」といって私を睨みつけました。でもめげずに客座に進んで手足を伸ばすと、木の皮が剥がれて落ちました。宝壇の前を見ると、母のいった通りに誰かが着物の袖を頭から被って横たわっていました。そこで「父さん、息子ですよ。神様から守られて生きていられたのですよ。早く起きて目を開けてください」というと、父は目を開けて私を見て、驚いて私に飛びついたと思うと気を失ってしまいました、そこで村人たちが薬湯を父に飲ませて体をゆすると気がついて、私を頭から足の先までしげしげと眺め「おまえの着物を覚えている。息子よ、神が守ってくれたので会えたのだな」といってまた気を失ってしまいました。そこで村人たちに事情を説明すると、みんな驚きました。みんなで父を看病して、なんとか父は元気を取り戻しました。みんな泣いて「よくここまで大きくなって無事で帰って来た」といって喜んでくれました。神に感謝し、それからは父と一緒に暮らし、私も山猟にいくくらいになりましたが、父はいつも「木の神、大地の神への感謝、祈りを忘れてはいけないよ」と私に言い聞かせ、母への祈りも欠かさずに暮らしました。やがて父は年を取り、私は働き者の女性と結婚して父を養い、父はいつまでの母のことを惜しみつつ、やがて死んでしまいました。私には子どもがたくさんできましたが、子どもたちには木の神や他の神々に感謝することを忘れないようにと教え、父と同じように村人を守りつつ暮らし、やがて私も死んでいくのですとある村の立派な村長が物語りました。



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