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110.殿様との対決(津波の神)

あらすじ:高橋靖以

 私はまことの長者だった。私の妻も働き者で、何不自由なく暮らしていた。ただ不足に思うのは子供がいないことだった。私は山に行ってクマでもシカでも捕り、その間に和人のところへ交易に出かけていた。

 あるとき、和人の殿様の村から「アイヌの長者は、霊力が強く勇気があると噂されている。私の村へお越しください」という書状が二回、三回と届いた。「私が何の勇気、雄弁をもつものか」と思い、固辞していたが、幾度となく書状が来た。そして「来ないのなら、戦いをするために和人たちが上陸するだろう」という書状が来た。

 私は「私が何の勇気、何の雄弁をもつもので、理由もなく戦いの用意をするというのか」と思い、ひどく腹をたてた。

 私は村人たちに、「このように和人の殿様のところから書状が来た。私一人が殺されるならよいが、村人たち皆が殺されるかもしれない。仕方なく私は一人で和人の村へ行くつもりだ。村人たちよ、充分気をつけて神に頼んでください」と言い残した。私の奥さんにも言って聞かせた。

 私は何日分かの食料を舟に積み、神々に見守ってくれるように祈り、舟に乗り込んだ。舟の神にも見守ってくれるように祈った。途中で泊まりながら進み、和人の村に到着した。和人たちが出てきて私の舟を上げるのを手伝ってくれた。私は仮の小屋をつくってそこにいた。

 それから、私は殿様のいるところに連れられていった。ずっと進んで行くと、大きな家があった。中に入って見ると、殿様がおり、私の方を向いてこう言った。

 「話すから聞きなさい。アイヌの人の勇気を噂に聞いたので、あなたの勇気を確かめてみたいと思い招いたのだ。津波の神をあなたが招いて来たら、あなたを殺しはしない。招いて来ることができなかったら、村人とともにあなたを殺す。」

 私はとても驚き、「見たことも聞いたこともない恐ろしい神に頼むことができようか」と思った。そして、「私はただの人間で、どこの神、霊力のつよい神であるのか、招いて来ることも恐ろしいのに、そのように言われるのか」と言うと、殿様は「津波の神を招いて来たら生かしておいてやるぞ」と言う。

 私は小屋に戻り、火をたいて、「私は津波の神のいるところを探してそこへ行きます。神よ、どうにかして霊力のつよい神のいるところを私に教え、私を連れて行ってください」と火の神に頼んだ。

 翌朝起きて外に出て、夜も昼も進んで行った。そして何日かして、海であるのか木原であるのか、とあるところへ行くと、山ほどもある二柱の神がいた。

 私は恐ろしく思いながら傍に行き、二十の拝礼、三十の拝礼を重ねた。そして、「和人の殿様の使いで来たのです。津波の神を招いて来いと言われたので来ました。神よ、聞いてください」と言った。すると神は私の方を向き、息の声がこう聞こえた。

 「話すからよく聞きなさい。私たちは津波の神だ。おまえが来る様子を見ていたので、待っていた。殿様のところへ戻ったら、夕方か明日か津波の神が来ることを伝えなさい。よい心をもつ和人がいたら、事情を話し、逃げられるようにしなさい。」

 私は二十の拝礼、三十の拝礼を重ね、急ぎ足で戻った。夕方近くに和人の村へ戻った。殿様のところへ行き、津波の神がやって来ることを伝えた。そして、気性がよさそうな村の人々に知らせて回った。私は和人とともに高いところへ逃げた。

 夕刻になった頃、あちこちから和人が大声で騒ぐ声が聞こえた。翌朝になって見たところ、村は掃き清められたように何も無くなっていた。私はひどく驚いた。生き残った和人たちは、「私たちの殿様がよくない心をもったために、村は壊され、流されたのか」と怒った。

 私たちはよその村に行き、無事に脱出したことをねぎらった。「アイヌの長者のおかげで生きのびることができたのだ」と和人たちは言い感謝した。

 私は和人のところに何日か滞在した。「アイヌの長者よ、これからはこのような悪い定めがないようにします。弁財船を償いの品として差し出します。クマの毛皮でもあなたが持って交易に来たら、何とでも交換します」とよその村の殿様は言った。

 海に舟を出し、舟に荷物が積み込まれた。和人たちは別の舟に宝物や食料や酒をぎっしりと積み込んだ。それから何日かすると、私の村へ到着した。

 村人たちは「神のおかげで私たちの長者が帰ってきた」と喜んだ。和人たちは荷物を運んだ。そして、「これからは決して悪い心は持ちません。アイヌの長者よ、クマの毛皮、シカの毛皮をもって交易に来たら、何でもたくさんお渡しします」と言い、帰っていった。

 その後で酒や食料、米など何でも村人に分け与えた。そして私たちは神に感謝の祈りをささげた。

 それから私は村人たちを大切にして暮らした。子供がいなかったが、子供にも恵まれた。子供たちに事情を話し、「決して悪い心をもつものではないぞ。神を忘れるな」と言い聞かせた。津波の神にも固い木幣、固い酒粕で感謝の祈りをささげた。そして年老いたのだ、とどこかの人が物語った。



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