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100.殿様との対決

あらすじ:北原次郎太

 私はとある長者だった。クマでもシカでも獲り、ときどき交易にでかけていた。妻も大変よく働き、畑作の時期になると豊かな収穫を得ていた。

 ある時から、日本人の長者がたびたび「霊力比べをしよう」といってたびたび手紙をよこすようになった。私は霊力などない人間だったが「来なければ兵隊を送って戦をしかける」と言われて困っていた。そのうちに、このまま身内ともども殺されるよりは、一人で行って死んだ方がいいだろうと考えて仕方なくでかけることにした。

 船にたくさんの食糧を積んで海上を進んでいくと、驚いたことに、歩いて旅した時には何もなかったはずの場所に、急に神山が現れた。その山で休みたくなって船を寄せると小さな入り江があったのでそこに船を上げた。山の斜面にそって踏みわけ道がり、上へあがって見ると、小さいけれども神が作った立派な館があった。そばへ行って咳払いすると、「私ひとりの暮らしで、迎える者もいません。どうぞお入りなさい」という声がした。入ってみると、本当に神々しい長者に迎えられた。そして「あなたには何も悪い心がないのに、日本人が力だめしをしたいが為に呼び出されていくのでしょう。一人で行っては殺されます。あなたが死ねば、あなたが祭っているカムイたちも残念に思うでしょうから、私があなたを守るために来ました。これから一緒にいってあなたを守りましょう。」と言って、身支度をすると私の船に乗り込んだ。

 日本人の長者のところへ着くと、寝泊りの小屋を作った。迎えの者がきて「あちらで力比べを」と言った。一緒に行ったカムイが「私が一緒に行くから、私の言う通りに振舞いなさい」と言った。力比べをする家へつくと、大勢の日本人がいた。大きなまな板があって、そのまな板の上で斬られても生きていれば日本人の負け、死ねば日本人の勝ちだと言われた。おどろいて「いったい私にどれほどの霊力があると思ってこんなことを言うのだろう」と思った。するとカムイが、自分の姿を見せないようにしながら「アイヌの長者よ、私があなたの姿になってまな板の上にあがります。あなたは隠れていなさい」と言った。日本人が「アイヌの長者よ、まな板の上に横になりなさい」と言うと、そのカムイが私の姿になってまな板の上に上がった。私は荷物の所に隠れていた。すると殿様が大きな刀を抜いて、私の姿になったカムイを力いっぱい斬った。ところが、私の姿をしたカムイは何回斬っても生き返ってむっくりと起き上がり、またまな板の上に横になるのだった。

さんざん繰り返したあげくに、カムイが起き上がって大きな声で言った。「さあ、今度はお前たちが横になれ。お前たちがやりたいと言って始めたことだから、今度は私が斬ってやろう」と言って、立ち上がって刀を抜いた。日本人たちは震え上がって「アイヌは霊力が強いと聞いたので、こんな言いがかりをつけました。私たちが悪かったのでどうか、殺さないで下さい」と言った。しかし、カムイは私の姿のまま「お前たちはアイヌを斬って面白がろうとしていたのだろう。さあ斬ってやるから早く横になれ」と何度も怒鳴った。殿様は何度も頭を下げてあやまり「アイヌの長者よ、私が悪かったので大きな船に二つでも三つでもお詫びの品を出しますから、どうかどうか」と言った。カムイは「いいや、ゆるせない」といってさんざんに叱りつけたが、殿様たちが「二度といたしません」と言って必死にあやまるのでゆるすことにした。

私の小屋まで戻ると、カムイが「あなたが出かけて行くのを見て、このままでは殺されることになる、果てはあなたの家族たちまで殺されるということが見えたので、いそいで神山をつくってあなたが立ち寄るようにしたのです。そうして、あなたを助けたのです。これからはあなたの子孫まで、いつまでも見守ってあげますよ。あの日本人たちはやがて償いの品を持って来るでしょう。あなたは帰ってみんなにこの事を話し、奥さんと一緒にカムイへの感謝を忘れずにみんなで幸せに暮らしなさい。」と言った。そして神山のところまで戻ると「私はこれからカムイの世界へ帰ります。どこにいても、いつもカムイを忘れずに祈り続ければ、末代まであなたたちを見守っていますよ」と言って飛んで行った。船に乗ってからもう一度振り返ると、さっきまであったはずの神山は無くなっていた。

私の家へつくと、仲間たちが出てきて「カムイに感謝します。カムイのおかげで私達の長者が生きて帰ってきました」とくちぐちに言って、私の帰りを喜びながら船を引き上げてくれた。私は見てきたことを話し、危なく日本人に殺されるところをカムイに助けられたと話して聞かせた。やがて、日本人から償いの品が届いたので、カムイへも捧げ物をして感謝し、仲間たちにも分けた。酒でも煙草でも、年寄りにも行き渡るようにした。

それまでは子供ができなかったが、やがて男の子も女の子も生まれ、子孫が増えた。そして「若い時に日本人の言いがかりであやうく命を落とすところだったが、カムイのおかげで助けられた。カムイのことをいつまでも忘れてはいけないよ。日本人というのは恐ろしいものだから、日本人のところへは近づくのでないよ」と言い聞かせながら、年を取って世をさったのだ、とどこかのアイヌが物語った。



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