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95.クマ送りのときに一緒に送られそうになった娘の話

あらすじ:遠藤志保

 わたしは、おばあさんに育てられていました。おばあさんは、年を取ってしまったので、何をするにもどこへ行くにも、わたしを連れては、いろいろと教えてくれました。

 わたしの村の村長は、毎年小熊を育てています。そして、クマを神の国に帰すときには、娘を一緒に殺して連れて行かせるのです。今年もまたクマを育てているのを見て、わたしもおばあさんも、おそろしい思いをしていました。いよいよクマ送りも近づいてきますと、また誰かを殺すんだろうという話も聞き、おそろしく思っていました。

 そうして、薪をひろったり、おばあさんの言うとおりにしてくらしていました。

 うわさでは、村長がクマ送りの準備をしているということです。そして、わたしをクマに連れて行かせるということなのです。それを聞いて、おばあさんもわたしも泣いていました。

 ある夜、わたしたちは何かの音で目を覚ましました。何かが神窓のところにいるようです。よく見ますと、村長が育てている小熊のようです。その息が、言葉として聞こえてきました。

「おばあさん、娘も、よく聞きなさい。わたしは、この村で育てられている小熊だが、わたしが神の国へ送られるときに、ここの娘が殺され、いっしょに連れていかせるという話を聞いたのだ。しかし、人間の娘を連れて神になることはできない。だから、逃げるぞ。おばあさんも、できるだけ逃げよう」

 そこで、食べ物や着る物を背負える荷物にして、川を上流へ逃げることにしました。

 暗くなったら火を焚き、クマやおばあさんと一緒に食事をし、横になりました。明るくなったら、歩けるかぎり歩きます。それをくりかえしていくうち、おばあさんは、歩くのがつらそうになってきたので、手を引いて逃げました。夜になると、また火をたいて食事をして横になりましたが、翌日になると、おばあさんは死んでいました。

 わたしは、ひとり残されてしまったので、ひどく泣きましたが、クマの息が、このように聞こえてきました。

「しかたのないことだから、おばあさんはどこかに引きずって、木の枝で覆っておこう。そしてまた逃げよう」

 そこで、またわたしは泣きながら、そのとおりにして、食べ物も残して、泣きながらクマの後から逃げていきました。

 そして、また野宿するときに、クマの息がこのように聞こえました。

「明日からは分かれて行こう。わたしは神だから、神のところへ行こう。お前は、この尾根を越えて下りたら、山向こうの人間のところに行って、なんとしても生きのびなさい。わたしは、お前を見守っているからね。わたしを育てていた悪い人間が、悪いクマに頼んで、わたしをつかまえに来そうなのだ。わたしはそいつと戦うから、おまえだけでも逃げなさい」

 わたしはそれを聞いて、泣きました。そして、翌日、わたしはクマと別れました。

 泣きながら、クマの言ったとおり、尾根を越えて下りていきました。その途中、クマの戦っている音が聞こえ、またわたしは泣きました。神さまにお祈りしながら、下りて行きますと、ひとりの男の人が来るのを見ました。その男は、わたしにとびかかってきました。そいつはわたしを転がすと、わたしはわけがわからなくなってしまいました。

 そのまま、倒れそうになりながら歩いていくと、またひとりの若者がわたしを見つけました。そして、

「若い娘さんが、かわいそうに。凍えそうだ」

と言いながら、わたしを背負って下りていきます。

 すると、大きな古い家があり、わたしをその中に入れました。そして、彼の両親に、

「この娘さんは、山で凍えそうになりながら、歩いていたので、連れてきたのです」

と言うと、その家にいたおじいさんとおばあさんは、

「かわいそうに」

と言いながら、火を焚いて介抱してくれました。

 2、3日して、わたしは人心地つくと、これまでの話をしました。

 そして、それからはその家でくらすことになりました。わたしは、おじいさんとおばあさんの手伝いをしていました。

 そのうち、わたしを助けてくれた若者といっしょになるように言われたので、その人と夫婦になりました。その人は、狩の上手な人で、何不自由なくくらしていました。

 また、おばあさんのところにもどって、立派なお墓をつくって、神や先祖のところに向かってお祈りをして、夫やその両親といっしょにくらしていました。

 そして、例のクマを拝みながらくらしているうちに、子どももたくさん授かりました。こうして、悪い人間のせいで殺されそうになりましたが、クマが良い精神を持っていたおかげで生きのびたのです、と一人の女性が、自分のことを物語りました。



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