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75.立派な家を建てた若夫婦の話

あらすじ:遠藤志保

 わたしは、両親と兄、姉とくらしている若者でした。わたしは、兄や姉の仕事や、父が山に猟に行くときにもいっしょに行き、クマやシカを運び、手伝いをしてくらしていました。

 わたしが成長すると、親たちは、わたしにはいいなずけの女がいるので、その女と結婚するようにと言います。それを聞いても、わたしは前とかわらず、働いてくらしていました。

 すると、

「お前たち夫婦は、わたしたちとは別の家を建てて暮らしたらいい」

と、親たちが言います。そこで、わたしは家の材料になる木を採りに行きました。兄や姉もそれを手伝ってくれ、小さな家を作りました。

 わたしは、立派な屋根の家を作ったのですが、父や兄は、

「新婚の人は、立派な屋根の家を作らないものなんだよ。そんなことをしたら運が悪くなるから、そんな家はやめて、ふつうの屋根の家を建てなさい。1、2年してから立派な屋根の家を作ればいいじゃないか」

と言います。けれどわたしは、自分のおよめさんにふさわしい立派な家を作りたいのです。兄や姉が何を言っても聞かないで、立派な屋根の家を作り、家の中もきれいにしたい、と思っていました。

 そして、およめさんをもらっても、わたしは、一所懸命はたらいていました。山に猟に行っても、クマでもシカでもたくさんとったので、

「交易に行きたい」

とわたしが言いますと、親も兄たちも、

「新婚のものは、舟でも何でも、新しくつくるものではないよ。運が悪くなるからね。およめさんに似合うものが欲しいなら、2、3年たってから船を作って、交易に行きなさい」

と言います。けれど、わたしはどうしてもおよめさんにふさわしいものがほしかったので、大きな木から船を作っていました。

 両親も兄たちも姉たちも、わたしを怒って注意をするのですが、わたしは言うことを聞かず、家も、家の中もきれいに立派にしましたし、大きくて立派な船もつくりました。

 そして、船に交易用の毛皮を運び、浜辺に船を下ろすと、わたしは自分の奥さんに、

「わたしは交易をしに行くから、元気で。留守をたのむよ」

と言って、出かけました。

兄たちは、船を出すわたしを手伝いながら

「気をつけて帰って来るんだよ」

と、わたしに注意しました。

 わたしは船に乗って、歌を歌いながら2、3日船にゆられていました。やがて、和人の村に着くと、船を上陸させて、和人のとのさまのところに行き、

「毛皮をたくさん背負ってきました」

と言いますと、和人たちはわたしの荷と、酒や米、首飾りなどと交換してくれました。わたしは、小さな仮小屋を作り、そこに交換したものを運び入れますと、とのさまのところへ行ってお酒をごちそうになりました。

 そして、ひどくよっぱらって、小屋に帰りますと、わたしはねむりこんでしまいました。すると、妻の夢を見ました。妻は、泣いていましたが、わたしを見ると、

「あなた、聞いてください。あなたはお父さんたちがやめなさいと言うのを聞かないで、自分にふさわしいものを作るんだといって、家も船も新しく立派なものを作りましたが、あなたが交易に行ったあと、わたしは急に病気になって死んでしまいました。今から、先祖のいるところへ行くところなのです」

と言ったのです。

 わたしは驚いて目を覚まし、朝になると、とのさまのところへ行って

「また来年来ます」

と言うと、船を交易品でいっぱいにして、帰りました。

 わたしは、泣きながら船に乗って、2、3日して自分たちの港に戻ってきました。

 わたしの家のほうに、人が集まっています。その中の一人は、わたしを見かけると、

「お前さんが交易に行っている間に、奥さんは急病でなくなってしまったんだよ」

と、泣きながら話しました。

 家に戻りますと、みんなが搗きものをしたり、料理をしたり、と葬式の準備をしています。わたしは家に入ると、「いったい何のために交易したんだ!」と、妻の上を転がりながら泣いていました。そして、交易して手に入れた首飾りも着物も、

「わたしの奥さんのところに送りますよ」

と、みんな切ってしまいました。

 わたしは、自殺したいと思いましたが、みんながわたしを守るので、死にたくても死ねません。

 それから、妻に立派なお墓をつくって、そこで転がりながら泣いているのですが、親や兄弟が、

「死にたい気持ちになるんじゃないよ」

と言われ、体をつかまれるので、死ねないでいました。また、

「代わりの奥さんをもらってあげるから」

とも言いますが、わたしは代わりの妻も欲しいとは思いません。ただ死んだ妻をかわいそうに思って泣いていました。

 わたしの仲間たちは、わたしの家に泊まって、わたしを見守ってくれます。けれど、わたしは妻のことを思って、食事もせずに泣いてばかりいました。そして、

「女性は一人だけではないよ。もっとすばらしい女性もいるだろうから、食事をしなさい。お前が泣いていたら、先祖のところにいるお前の妻のおわんにも涙がたまって、彼女も食事できないのだからね」

と言いながら、わたしに食事をさせます。しかたなく、ほんの少しだけ食事をしました。

 こんなふうにして、一年ほど暮らしていました。あるとき、兄たちのところで、酒宴があって、そこに行きますと、

「女はたくさんいるのですから、泣かないで、また新たな気持ちをお持ちなさい」

と言われます。女たちは、わたしのそばに来て、踊ったり歌ったりしていました。

 真夜中、自分の家に帰ってくると、わたしはやはり妻のことを思って、「わたし一人だけが生きているべきではない」と考え、何も食べないで死んでしまいました。

(語り手が兄に変わる)

 わたしの弟が気持ちを新たにしてくれればいいと思っていましたが、弟は自殺してしまいました。わたしたち家族は泣きに泣いていました。その後、弟が夢でこう言いました。

「父さんや兄さんたちが言ったように、新婚の人は、1、2年は立派な家や船を作らずにいなければ運が悪くなるので、わたしたちはそのせいで死んでしまったのです」

だから、これから生きていく人たちは、決してこのようなことをしてはいけないよ、という話をしました。



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