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69.石狩の少年と奥山の白大蛇・黒大蛇

あらすじ:遠藤志保

 石狩の長者の家で、わたしはくらしていました。6人の兄と6人の姉がいて、わたしは一番下なのですが、どういうわけか土間のすみっこで、犬といっしょに育てられていました。犬に食べ物をやると、わたしの上で取っ組み合うのです。薪とりをすれば、「こんないい木を取って来て」と言って叩かれます。何かにつけては、叩かれるのです。

 ただ、一番小さい兄さんと一番小さい姉さんだけは、わたしにこっそりおいしいものをくれて、かわいがってくれるのでした。

 だんだん大きくなって、若者らしくなってきても、相変わらずないがしろにされていましたが、あるとき、小さい兄さんと小さい姉さんは、泣きながら、わたしにこう言います。

「石狩川の上流の神のところに、おまえを使いにやるらしい。その間、神がおまえを守ってくれるように、くれぐれもよく祈っていくんだよ」

 そして、村の人々も集まって、搗きものをしたり酒をつくったりしました。

 次の日、わたしは家の中に入れられて、着物を着せられました。そして、食事もおなかいっぱい食べると、その家のおじいさんは、

「おまえも大きくなったから、この川を上流に行きなさい。そうしたら滝があるから、その滝を越えると大きな洞穴がある。そこにいる神がおまえをよんでいるから、行ってこい」

と言いました。

 小さい兄と小さい姉は、泣きながら「生きて帰って来るんだよ」と送ってくれました。

 わたしは言われたとおり、神に祈りながら、上流のほうに船をこいで行きました。ずっと行くと、滝がありました。

「どうやって、この滝を越えていこうか」

と思っていますと、船が高く飛び上がって、越えることができました。わたしは、驚きました。船をいっしょにこいでくれている女の人らしき姿が見え、そのまま船をこいでいきました。(実は、水の女神が舟をこぐのを手伝ってくれているのです)

 さらに山のほうへ行くと、大きな洞穴がありました。そこへ行ってかしこまっていると、

「さあ、お入り」

と声がします。かしこまって入りますと、中は白いもやで満ちあふれていました。はいつくばって炉辺に座ると、さっともやが晴れました。そして、白い小袖を重ね着した神が、わたしにこうおっしゃいました。

「石狩の少年よ、よく聞きなさい。おまえの父親は、しっかりしたリーダーで、わたしに祈ってくらしていたのだが、急な病気で死んでしまったのだ。そして、おまえの両親は、『この子を立派に育ててください』と石狩の人間に頼んだのだが、その人間は、おまえが成長したときに宝物をおまえだけに渡したら、自分の子供たちはうらやましく思うだろうと考え、おまえを貧乏人として育てたのだ。そして、おまえの両親の財産を自分の子供たちにやろうと思っていたのだ。わたしは、今までおまえを見守っていたのだが、おまえをわたしのところにやったら、食われてしまうだろう、と育ての親が考えたために、こうしてよこされたのだよ。そして、おまえは、この山のもっと奥にいる神のところへ行きなさい」

 そこで、わたしは外に出ると、船に乗ってさらに山のほうへ向かいました。ずっと行くと、暗い洞穴がありました。そこに入りますと、中は黒いもやであふれています。火のそばに、這いながら行って座りますと、黒い小袖を重ね着した神は、前の神と同じ話をしました。そして、こうおっしゃました。

「村人は、おまえを食べるように、と長いこと祈っていたが、わたしはおまえの父から祈られた神だから、おまえを食べることはしないよ。わたしは、悪い村人の方を食うつもりなのだよ。わたしが村へ下りる前に、おまえは先に行って、『神々が下りてくるぞ』と言いながら行きなさい。悪い人間だけ殺して、よい精神を持っている者は生かしておこう。その後は、悪い人間たちの家は燃やしてしまい、残ったものたちと共に新しい家をつくりなさい。そして、わたしを祈ってくれたら、いつまでもおまえや子孫の背後を守ってあげよう。さあ、早く行きなさい」

 わたしは、感謝しながら外に出て、船に乗って川を下っていきました。わたしの家に来ると、人々が集まってにぎやかにしている声が聞こえます。

 その中、小さい兄と小さい姉が、わたしを見つけ、

「ありがたい、神のおかげで、おまえが生きてもどって来た」

と言います。わたしは、

「今、神が下りてくるはずですよ」

と、神に言われたとおりに、小さい兄や姉、よい精神の仲間たちのところを走り回って、みんな連れて逃げました。そして、「どんな音がしても決して顔を出さないで逃げるように」と神に言われていたので、そのとおりに、みんなで村の向こうの山に逃げていきました。

 真夜中になると、「助けてくれ」という大声が聞こえましたが、言われたとおり姿をかくしていました。

 日が高くなってから、下りてみると、悪い兄や悪い姉たちの死体があります。驚きながらも、その死体を全部村の向こうへひきずっていきました。

 その後で、新しい家をつくりました。そこに、宝物を入れて、古い家は燃やしてしまいました。そして、小さい兄と小さい姉といっしょにくらしているうち、わたしは大人になりました。

 どこからか、姉のところに立派な長者がやってきて、兄のところにもすてきな女性がお嫁さんにやってきました。わたしも、若い女性と夫婦になってくらしました。そして、子どももさずかりました。

 それからは、山に猟に行くのでも兄といっしょで、四方山話もしながら、むつまじく暮らしていました。

 こういうわけで、わたしはひどい育てられ方をしましたが、神が守っていてくれたおかげで、生きのびたのです。だから、悪い精神をもつものではないのだよ、と子どもたちに教えながらくらしていましたが、もうわたしも年老いたので、このように話したのです。

 と、石狩の少年が話しました。



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