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19.兄とふたりで暮らす女の子が山の中で男の子を拾う話

あらすじ:安田千夏

 私はひとりの女の子で、兄とふたりきりで暮らしていました。どうして自分が生まれたのかもわからなかったけれど、兄は猟が上手なので何不自由のない暮らしをしていました。兄についていって薪を採ったりして少し大きくなると、兄は私に山菜採りや畑仕事を教えました。

 あるときオオウバユリ掘りにひとりで山へいくと、何処からか男の子の泣き声が聞こえて来ました。声のするほうに進んでいくと、やっと歩けるようになったくらいの小さな男の子が、何度も転びながら、お母さんを探して泣き叫んでいるのでした。近くにいってみるときれいな顔立ちをしていて、耳には立派な耳環をしていました。こんなに可愛らしい子を捨てたのか、忘れて山を下りてしまったのかしらと思いつつその子をあやして背負い、オオウバユリも一緒に背負って、重たい思いをしながら家に帰って来ました。兄に事情を説明すると怒られてしまい、それでもかわいそうなので可愛がって私が育てていましたが、兄は毎日のように私たちをいじめました。「どこかへ連れていって殺してしまえ」とまでいうので、ここにいたらこの子は兄に殺されてしまうと思い、荷物をまとめて子どもを背負い、山の中へ逃げていきました。

 山の中の知らない場所にきれいな川が流れていたので、そのほとりに小さい狩小屋を造り、その子と一緒に暮らすことにしました。野草を採って、見ると川には魚が遡上して来ていたので、それを釣って食べて暮らしていました。

 夏の終わり頃、何かの音がするのでそちらを見ると、山の高いところをクマが歩いているのが見えました。何かを転がして落として来たので、見るとそれは大きな雄ジカの死骸なのでした。私たちに同情してクマ神が獲物をよこしてくれたのだと思い、クマ神に感謝しつつ火の神に報告し、シカ肉をさばいて保存食にし、そのおかげで飢えることもなく暮らすことができました。そしてやがて、この子の親か知り合いを捜そうと決意し、山を下りていきました。

 知らない村に着いて一軒の家の前で訪問を告げると、しばらくして女性が出て来ましたがすぐに引っ込んでしまい、家に招き入れてはくれませんでした。そこで子どもの手をひいて勝手に家に入り、かしこまって座っていました。家の中には先ほどの女性がひとり、そして宝壇の前に男性が着物の袖を頭から被り、丸まって寝ていました。その男性は私たちを見ると起き上がり「どこから来たのか」と尋ねました。そこで今までのいきさつを話すと、男性は男の子を抱きしめて「私の息子ではないのか」といって泣きました。

 「私の悪い妻が、ある日私が山猟から帰って来ると『薪採りにいくと、途中で息子が行方不明になった。誰かに連れ去られたのだろう』というので、それからは息子のことを思い煩って何をする気力もなく、寝込んでいたのだ」というのでした。そして火箸を取り、妻をさんざんに打ちのめし、何故子どもを捨てたのかと問いただしました。すると女は「子どもができたら旦那さんは子どもばかりを可愛がって私を可愛がってくれなくなった。それに腹を立てて、息子さえいなければ、またあなたと仲良く暮らせると思ったので捨ててしまったのです」といいました。その男性はひどく怒り、その女を打ちのめして追い出してしまいました。そして私に感謝し、妻になってくれというので驚きました。私は兄が恋しいけれど、私がいなくなっても探しに来なかったのだから行くあてもないと思い、その人のいう通りに結婚してそこでその子と3人で暮らすことにしました。

 そのうちに女の子が生まれると、旦那さんはこのようにいいました。「お兄さんが元気かどうか、訪ねていきなさい」。そして旦那さんとふたりで子ども達を背負って生まれ育った村に行きました。兄と住んでいた家を訪ねて、出て来た兄に今までのことを全て話しました。すると兄は「私が悪かった。かわいそうなことをしたと思い、おまえ達が出ていってからは後悔して、食事もせずに寝てばかりいたのだ。こうして無事な姿で訪ねて来てくれたことに感謝します」といって喜んでくれました。何日かして私たちの村に戻り、しばらくすると兄のところにも立派なお嫁さんがやって来ました。お互いに行き来しながら仲良く暮らし、子どももお互いたくさんできました。

 それから雄ジカを転がしてくれたクマ神は私の旦那さんに夢を見せて、そのわけを聞かせてくれました。そのクマは村を守る神で、人間の女性がひとりで苦労をして子どもを育てている様子を見て同情し、雄ジカを届けたということでした。それからは酒を造ると旦那さんも兄もクマ神に祈りを捧げ、感謝をしながら幸せに暮らしていますとある村の女性が物語りました。



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