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16.夜襲を察知した子グマの神の教えで隣村に逃げて助かった女たちの話

あらすじ:安田千夏

 私はある村に暮らす女性で、立派な旦那さんと結婚し、旦那さんは働き者なので狩りにいくとたくさん獲物を獲って来ます。私も山菜採りや畑仕事に精を出し、何をうらやましいと思うこともなく暮らしていましたが、ただひとつ子どもがいないことが寂しいと思うことでした。やがて旦那さんは妾をもらい、私はその妾の女性と何をするのでも一緒に助け合って仲良く暮らしていました。妾の女性に早く子どもができたらいいと思いながら暮らしていましたが、その女性にもまだ子どもはできないのでした。

 ある年に、旦那さんは交易にいくといってたくさんの毛皮を舟に乗せました。そして私たちに「飼いグマの世話をよくして、留守を守っていておくれ」といい、海へ漕ぎ出していきました。その後は、妾の女性と一緒に仔グマの面倒をみながら暮らしていました。

 するとある時から仔グマが哭いて、檻の中で暴れるようになりました。夜でも昼でも哭き騒ぐので、何かの前ぶれかと思い火の神にお祈りもしましたが、クマは一層暴れるのでもう檻は壊れそうになってしまいました。そこでどうしようもなくなり、檻の出口を開けると、クマは檻から出て、神窓から家の中に入り、神座に座りました。そしてクマの吐息が言葉になって聞こえて来たのです。

 「育ての母さん、よく聞いてください。旦那さんの留守を狙って、悪いものたちが夜襲にやって来るようです。殺されてしまうから、宝物を持って早く逃げてください」。そういうので驚いて泣いてクマに飛びつきましたが、逃げろと急かされるので、急いで旦那さんの宝物入れを開けてみたところ、銀の刀の鍔がありました。葬式用の紐しかないので、それを鍔に通してクマの首に結びつけました。そして炊事してあったものをクマにたくさん食べさせ、妾の女性や村人に事情を説明しました。そしてクマを先に逃がすと、クマは神窓を通って家の外に出て、祭壇の端を通って山のほうに哭きながら走っていきました。私たちは泣きながら火の神に再びクマ神に生きて会えるようにと祈り、クマとは反対方向に、妾の女性と一緒に逃げていきました。

 人間がいるところを探して歩いていると、どこかの村に着きました。村の真ん中にある家のゴミ捨て場のところで泣いていると、家から若い女性が出て来て私たちを見て、すぐ家に入ってしまいました。家の人に私たちのことを告げると、老人の声で「お入れしなさい」というのが聞こえました。そして家に招き入れられ、妾の女性とふたりで入っていくと、家には年老いた夫婦がいました。客座に座って泣いていると、わけを聞かれたので今までのいきさつを説明しました。するとその家の人は私たちに同情してくれました。夕方になるとその家の家族である若い男性ふたりが山猟から帰って来ました。そして私たちの身の上を説明すると、その家族は「行くあてもないならば、これからはこの家で暮らしなさい」といってくれたので、ふたりで居候となってその家の若い娘の仕事を手伝って暮らしました。

 裕福な暮らしでしたが、旦那さん、クマのことが気がかりで妾の女性と泣きながら暮らしていました。しばらくすると、こんな噂が聞こえてきました。村人たちが山猟にいった時に、喉のあたりが光っているクマを見たというのです。クマが歩くと、喉のあたりが陽が射したように光っていたというのを聞いて、もしかして私たちの育てたクマなのではないかと思いました。

(この後は語り間違えたということなので中略)

その噂を聞いてしばらくすると、男の人たちがそのクマを獲って、村に背負って来ました。私たちが育てたクマに間違いなく、その村で盛大な送りの儀式をしました。そしてその儀式が終わった後、なんと本妻の女性も死んでしまったのです。

 (ここからは妾の女性が物語ります)クマも姉さんも死んでしまったので泣きながら暮らしていると、村の人たちはクマが姉さんを連れていったのだから仕方がないよとなぐさめてくれました。姉さんの葬式が終わると、家のおじいさんは夢を見ました。例のクマ神が出て来てこのようにいったというのです。「檻から逃げた後、山でヤマブドウを採ろうとすると、ヤマブドウの木の神は私に対して実の出し惜しみをし、コクワの実を採ろうとしてもコクワの木の神は実の出し惜しみをしました。『人間くさいやつにはやらないよ』というので、私は山ではいつも食べることに苦労をしていました。仕方がないので育ての母を探し、一緒に神の国に行こうと思っていたのです。私を獲った人はいい人だったので、盛大な送りの儀式をしてもらうことができました。そして育ての母を一緒に連れていったというわけです。どうか怒らないでください。それからこの家にいる妾の女性は、この家の長男と結婚させてあげてください。実は交易にいった旦那さんも、海の上で病気にかかって死んでしまい、帰って来ることはなかったのです。この死んだ母、父の子孫を妾の女性が残してくれるように配慮して欲しいのです」。

 その家のおじいさんは神へ感謝の祈りをし、その言葉通りに長男と私を結婚させてくれました。子どもがたくさんできたけれど、本妻の姉さん、旦那さんをいつまでも惜しみつつ暮らしました。一番先にできた子だけは自分の子孫とし、後の子は死んだ姉さん、旦那さんの子孫として(?)育て、私も死んでいくのですと、ある妾の女性が物語りました。



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