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128. クモを戒めて妻にしたエゾイタチの話

話 者:川上まつ子
資料番号:34730
収録日:1987年10月11日
「私」:クモ、エゾイタチ
登場人物:クモのご婦人、エゾイタチ
翻 訳:小林美紀
サンプル音声

<あらすじ>

(クモの語り)

 私は葦の上に住む女性で、毎日糸紡ぎを仕事として暮らしていました。美しい姿に私を見初めたカムイ(神)達が嫁にしようとやってくると、「地獄(ポナモシ)の魚を持って来たら、一緒になってあげるわよ。」と言っていました。それを聞いたカムイ達は地獄へ行ったまま、帰ってきません。

 ある日、何者かわからないものが、突然に私のところに現れました。

(エゾイタチの語り)

 クモの話を聞いたカムイが地獄に出かけて行っては帰ってこない様子を見て、腹が立ち、私は抗議しに行きました。糸紡ぎをしているところへ突然現れるとクモは驚いて、「私のところに来ても地獄の魚を持って来なかったのなら、あなたと一緒になってはあげないわよ。」と言いました。

 すぐ私は地獄に行って、そこの魚を持って現れると、びっくりして、「今までどんなカムイでも行ったっきり帰って来なかったのに、どこの魔物が地獄に行って、こうして現れたのかしら!」と私を罵りました。私は「お前がこれを食べたがって、カムイを死なせたんだぞ。」と魚を投げ捨てました。

 すると「私は魚を食べたくて、そうやって話したんじゃないけれど、それでカムイを死なせてしまった。こうすべきでないとは思っていた。お前が魚を持って来たからといって、私は食べないけれど、食べなくてもお前と一緒になるつもりだから同意してちょうだい。」とクモが話しました。

 そうして、クモが私の方を向いたときに私は息をさっと吹きかけ、クモの目を痛くさせ、次に家とごと燃やされるかのように思わせました。

 ひどく苦しんでいる様子をみると、すぐ自分の家に戻り、前からそこにいたかの様に私は装っていました。ずっと放っておくのはよくないので治してあげると、クモは私の素性を探している様子でしたが、私はもやをかけていたので、居場所がわかりません。しかし、いつまでもそうやっておくのもかわいそうに思い、もやを散らしたので、私のいるところがわかりました。

 そうして、クモが家の外までやってきましたが、私は知らん振りをし、家の中に入ってきても振り向きもせず、家の中にホコリが積もっているかのように見せました。翌日から毎日毎日朝からゴミを掃いて外に出しているかのようにクモに思わせていると、それに疲れてしまって「どんな偉いカムイがこんなところで暮らすかしら。偉いカムイなわけない。地獄の魚を持ってきたら一緒になると私が言って、このカムイが魚を持ってきたために、一緒になることになってしまった。」と涙を流す様子を見て、私は笑いたくなりました。クモは疲れて食事の後、すぐにいびきをかいて寝ていました。

 いつまでもそのように思わせておくのも悪いので、クモが寝ている間に家の中が輝いているようにしておきました。クモは目を覚ますと家の中のきれいな様子にびっくりしているようでした。「私はお前を嫁にしようと思って自分の所にこさせたのではない。懲らしめるために来させたのだ。今後も悪い精神をお前が持っていて、カムイを死なせてしまうようなら、すぐに懲らしめるつもりだぞ。考えを改めるなら、わたしはお前を生かすけれど、そうでないなら、お前を地獄(テイネモシ)に行かせるぞ。」と話しました。するとクモはひどく驚いて「本当に私が悪いのです。自分を恥じて今からは改めます。静かに歳をとりたいので、どうか生かしてください。」と話し、しっかりと何度も頭を下げました。

 それならまさかまた悪い心が出て来ることはないだろうと思ったので、「ここに一緒にいるなら、悪い心をお前が起こしたときは私がきちんと懲らしめるつもりであるけれど、それでよいなら、私の食事の支度をしなさい。」と私が言うと、何度もお辞儀して、喜びました。

 それからはクモは悪い心を持つこともなく一緒に暮らしていました。歳をとって子どもに恵まれて、何も困ることもなく欲しいものもなく暮らしている間に私の子ども達も大きくり、次々結婚して子どもを持ち、私はもうこの世を去ることになりました。

 私の子ども達にこのように悪い心を決して持つことなく、争うことをせずに仲良く共に過ごすように命じながら私はあの世に行くのです。



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