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122. ユペッの兄弟と沖の国の姉妹の縁談の話

話 者:川上まつ子
資料番号:34720
収録日:1987年5月24日
「私」:ユペッに住む兄弟の弟
翻 訳:丹菊逸治
サンプル音声

<あらすじ>

 ユペッの川尻に私は兄と2人で暮らしていた。兄は猟の名人で、私を大変可愛がっていた。私は成長して兄以上の猟師となった。すると兄は家の中の仕事をみな私にやらせるようになった。私は不満だったが毎日黙って従っていた。

 ある日、沖の国から船がやってきて、乗っていた人々が上陸した。私は兄に言われて渋々人々を招き入れた。沖の国から来た人が言うには「自分には妹が2人いて、下の妹にはあちこちから求婚者がやってくるが、泊まった翌朝にはみな傷もないのに死んでいる。父は、死んだ求婚者の遺族に財産を少しずつ渡していたが、もう何もなくなってしまった。『北海道の人は神に守られていると言うから、そのお年寄りの古い褌や肌着が魔除けになるかもしれない。お願いして持って来てくれ』と父に頼まれた」と言う。すると兄は、遠慮なく自分の弟を連れて行けと言う。私は、兄は自分を追い出したいのだと思い、ふてくされて寝てしまった。

 翌朝仕方なく荷作りしていると、兄が戸口の両脇からイナウを抜いて、「途中でアヨロに一泊するとき、俺が作った祭壇に立てろ」と言う。私は腹が立っていたが受け取った。沖の国の人々も兄に説得されて私を連れて行くことにした。やがてアヨロに着くと、人々が食事の支度をしている間に私は祭壇に行きイナウを立てた。その夜私は夢を見た。髪が半分白髪の立派なおじいさんがそばにいて、「お前の兄はいろいろなことが予見できる立派な人間だ。彼は全て承知で前を使いに出したのだから怒らずに従え」と言う。そして「お前の行く先には困難があるが、このお守りを懐に入れて行けば助かる。帰りにお守りを祭壇に返せ」と言って小さな袋をくれた。

 翌日のお昼過ぎには沖の国の村に着いた。村の真中には大きな家があり、それが沖の国の兄弟たちの家であった。中に入ると、おじいさん、おばあさんと若い娘がいた。立派な若者を連れて来たことにおじいさんは驚いたが、兄の方が「この人の兄は絶対大丈夫だと言っていたから、今夜一晩様子を見よう」と提案した。夕食の支度をしていた姉が妹を連れて来ると、姉に負けずきれいな娘だった。しかし泣いてばかりで、いつのまにか出て行ってしまった。

 夕食後、私が離れへ行ってみると、妹は美味しい料理を用意して待っていた。私が話しかけてもすぐに泣いてしまう。そのうち寝室に行ってしまったので、私も寝床に入った。すると窓から日が差しているように、自分の周りが明るい。眠らないでいると、夜中に強い風のような音がして、窓から何か入ってきてぶら下がった。見るとそれは大蛇で、頭を娘の部屋の方へ、尻尾を私の方へ伸ばしてきた。アヨロでもらったお守り袋の中を見ると、木綿針と布団針が1本ずつ入っていた。「木綿針ではだめだろう」と思って、布団針を尻尾に突き刺した。すると雷の音が響きわたり、私は気絶してしまった。

 しばらくして気づくと私はその家のおじいさんの膝に頭を乗せて横になっているのだった。そばには例の娘が兄の膝に頭を乗せて横になっていた。そしてまた気を失った。やがて私も娘も意識を取り戻した。するとおじいさんが「今まで求婚者たちがみな無傷なのに死んでしまったのは、雷神の仕業だと分かった。人間は人間同士、神は神同士結婚すべきなのに、今後も我々を苦しめるならいくら雷神でも許すことは出来ない。私の話を聞いた神々が力を合わせれば雷神でも敵うまい」と言った。村の人々も集まって神々に祈った。

 私はその夜夢を見た。立派な若者がそばにいて「自分は雷神の息子だ。兄が結婚して子どもをもうけたので、自分も結婚相手を探したが、神の世界には気に入った女性が見つからなかった。人間の世界のこの娘は器量も精神も良いので、死んだら魂を奪って結婚しようと思った。だが人間と結婚してしまったら諦めるしかないので求婚者を殺したのだ。そのうちにアイヌの神々から私の親に怒りの連絡が入り、親子ともども悪い神にしてやると言われてしまった。我々の持っている宝物を全て弁償として差し出すから、それで許してくれないだろうか。今までどおり神として扱ってくれれば、いつまでも守護しよう。娘とはお前が結婚するといい」と言う。目が覚めると、その家にいた者はみな同じ夢を見たと言って祈りを捧げた。外に出て見ると、雷神の巴紋の入った宝物が家の裏に積み上げてあった。おじいさんは祈りを捧げて「神も人間も恋する心は同じである。ここまで雷神が謝られるなら、これまで以上に偉い神として扱い申し上げる」と言った。

 家の者たちは、殺された人たちの家族にも宝物を分配した。娘2人とその兄たちは私の分の宝物を船に乗せ、私を村ヘ送り届けてくれた。帰りがけにはアヨロに泊まった。娘たちが晩の支度をしているうちに祭壇へ行き、お守り袋を返してお祈りをした。

 翌日は何事もなく村ヘ帰りついた。船が着くと、兄が笑いながら迎えに来て「お前は怒ったまま出かけたが、立派に用をたして帰ってきてくれた。ありがたい」と肩を叩き、一緒に荷物を揚げ家に帰った。娘たちが食事の支度をして、みなで食べて話し合った。村の人々も集まって話し合った。

 翌朝兄が「姉娘は私と、妹娘は私の弟と結婚する。その代わり、こちらの村の精神のよい美しい娘2人を、結婚相手に連れて行ってもらう」と言い、娘たちを連れて来た。年上の娘は沖の国の兄の方と、年下の娘は沖の国の弟の方と結婚して行った。兄は沖の国の姉娘と、私は沖の国の妹娘と結婚した。それからは、山に狩に行く時に兄が「今日は猟場の上空に悪い雲が見える」と言えば中止した。「今日は猟場がいい」と言えば行くと獲物がたくさん獲れた。そうしてみなで満ち足りて暮らした。「沖の国へ行った娘たちはどうしているだろうか、舅たちのところへ見に行こう」とアヨロに行って祭壇にお参りしたり、娘たちの様子をみたり、雷神のことも忘れずにお祈りしたりして暮らしていた。私も兄もたくさんの子供に恵まれ、何不自由なく幸せに暮らした。沖の国へ行った娘たちも同じように幸せに暮らした。その後、そういう縁で双方の人の行き来が増え、沖の国とアイヌの両方の血をひいた子供が増えた。それもこの雷神の事件が発端なのだから、兄が亡くなった後には、兄や私の子供たちや村の人たちみんなに雷神をお祭りするように言い聞かせて、私もこの世を去った。



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