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114. ポロシ山頂の湖を見にいった男の話

話 者:川上まつ子 資料番号:34717
収録日:1986年9月30日
「私」:ニナチミの男
登場人物:ニナチミの男、その家族、ニナチミの村人
翻 訳:小林美紀
サンプル音声

<あらすじ>

 私はニナチミの人間です。「シシムカの水源にはポロシのカムイが住んでいる場所がある。山の麓から見るだけでも驚くくらい立派な山なので、山の頂上まで登ったらさぞかし素晴らしいのだろう。」そんな噂を聞いたので、私は死んでも構わないから行ってみたいとそればかり考えていました。

 そして、ある日とうとう支度して行ってみることにしました。一晩かかるか、二晩かかるか分からず、食べ物が足りずに歩けなくなったらどうしようもないと思ったので、肉を茹で干しにし、たくさん背負いました。

 そうして、シシムカの川に沿って進んで行って、山の下まで来ました。山の下から見てもポロシはすばらしいと思い、そこで食事をし、食べ物を撒いてお祈りをしました。「私は河口のニナチミ村から来た者です。どうにかしてカムイのいる場所を見たい。それが出来たら死んでもいいと思いながらも、我慢していたのですが、とうとう来てしまいました。険しくとも何とかしてでも登るつもりです。カムイの住んでいるところをどうか見せてください。それが出来たら死んでもいい。死んだら、カムイの世界の仲間になっても良いです。どうか受け取ってください」と話しながら、食べ物を撒きました。

 そして険しい道をどうにかして登ろうと、木を掴み上がり、また、次の木を掴んで上がりを繰り返して、山の中腹まで来ると、そこに大きな立ち木があるのが見えました。もう暗くなってきていたので、「何とかしてあそこまでは登って、あの立ち木のところに泊めてもらおう」と思い、その木のところまで行くと、一人なら楽に寝られそうな様子だったので、そこに荷物を降ろしました。そして、食べ物を取り出して撒き、木のカムイに「何とかして助けてカムイの住んでいる場所を見せてください。どうか今日一晩泊まらせてください。明日になったらまた登ります。助けてもらい、何とか生きて帰ることができたならイナウやお酒でお礼をいたしますから」と祈り、食事をして眠りました。

 目覚めると、あたりも明るくなっていたので、食事をして、食べ物を撒きました。また頂上を目指すつもりで、なんとかして泊まった木の上に登ると、上の方で轟音が響き渡りました。見ると、強い風が山の上から吹き、木がしなって揺れています。激しい雨も降ってきました。恐ろしくなって、こんな状況では自分は転げ落ちて死んでしまうと思い、「もし、自分が転げ落ちて死んだら、人間の臭いがして大変ですよ。どうか助けてください」と拝み、掴んでいた木にまたがって、両手両足を使ってしがみつきました。雨風が止む間に少し登り、また、雨風が強くなれば祈るということを繰り返して登っていくと、とうとう山の頂上までたどり着きました。

 私はまさか山の頂上にこんな光景が広がっているとは予想もしなかったのに、そこにはまるで海のような大きな沼があり、海の魚や海鳥がいました。そして、幅の広い昆布まで生えています。私はびっくりしながら山の頂上のカムイ皆に「どうか人間の作った食べ物を受け取ってください。悪いことをしようと思ってきたわけではなく、カムイが住んでいるところを見てみたい、それが出来たら死んでもいいと思ってきたのです。自分が早かれ遅かれ死んだら、カムイの世界の仲間になるつもりで見に来たのです。無事に帰ったらイナウやお酒でお返しをしますから、どうぞ見守ってください」と拝みました。

 その沼は一周するにも何日もかかりそうなほどでした。「また今晩泊まったら家族も心配してしまう。なんとかして、山の麓まで下りたら、暗くなっても川沿いを歩いて帰ることが出来るだろう」と思ったので、礼拝して食べ物を撒き、「自分の口から話すだけよりも、村人達も納得するだろうし、彼らに見せたいので昆布を一、二本ください。家に帰ったらイナウやお酒でお礼しますから」とお願いしました。そして、昆布を折りたたんで、荷縄で縛り、背負いました。 

 山を下りるのも、木につかまって滑り降り、下についたら手を放して、また次の木を掴むのを繰り返して下りていきました。

 山を半分も下りないうちに、なぜか自分の背中がもそもそしました。「しっかり昆布を縛り付けたのになぜだろう」と不思議に思いながらも手を放せない場所だったので、下に下りてから、荷物を見ると、昆布だと思って縛り付けたものは太い大きなヘビで、それがもそもそと動いていたのでした。腰が抜けるほどびっくりして「昆布だと思い、持って帰って村人に見せるつもりだったけれど、こんな偉いカムイであるのを知らないで縛り付けて悪かった。戻ったら、必ずお礼しますので、無事に帰れるようお守りください」と縄を解き、姿が見えなくなるまで拝みました。そうして、また下りて前に一晩泊まった立ち木のところで一休みし、食べ物を撒いて、再び急ぎました。

 「早寝の人は寝てしまっているけれど、ゆっくりの人はまだ起きているだろう」と思いながら、やっと自分の村に戻ると、自分の家には明かりがついていました。中に入ると、家族は「今晩も帰ってこないかもしれないと心配で寝るに寝られなかった。無事に帰ってきて良かった」と言いました。私は「ご飯を食べたら休むよ。明日になったら話すから」と伝えて、ご飯の後はすぐに休みました。

 翌朝、自分が戻ったのを知って村人達が集まってきたので、見てきたことや昆布だと思い、背負ったものがヘビだった話をすると、皆はびっくりしました。

 私は「山の頂上に行き、早かれ遅かれ自分が死んだらカムイと一緒に住むつもりだと話して拝んで見て来たので長生きはしないと思う。いつ死んでも当たり前だし、あの世には行けない。ポロシの頂上に行くから、あの世に物を送るのではなくて、ポロシのカムイのところへニナチミから行った人間がいると言って送ってくれ。」と伝え、この世を去りました。



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