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69. 水の神の罰で滅びかけた村を救った男の話

話 者:織田ステノ
資料番号:34193
収録日:
「私」:ある村の一人息子
翻 訳:安田益穂
サンプル音声

<あらすじ>

 私は父母と三人で寂しく暮らしていた。やがて両親も年老いて働けなくなると、薪とりや水汲み、炊事、畑仕事もひとりでこなし、その間にウサギやシカをとったりして両親を養っていた。

 そうしているうちに、ある村で、一晩のうちに、一軒に何人いても、何者かがさらって行方知れずになるという噂を聞いた。今は村長の家が一軒かそこら残るだけになってしまい、村ごと消えかかっているという話で、私は不思議でならない。父母は「お前がいなければ何もできないんだから、絶対に行ってはだめだぞ」と言うが、どうしても一回行って確かめなければと考えていた。

 ある日、狩りに出るふりをして出かけると、「早く帰って来いよ、遅いと心配するからな」と父母の声を背に、私は村めがけて山越え谷越え急いで走って行った。高い山から村を見下ろすと、たくさん家があるが煙ひとつ見えない。真ん中の大きな家(村長の家)だけわずかに煙が見えるので、まず行ってわけを聞いてみようとその家に入った。

 家には若い衆二人とおじいさんおばあさん、娘が一人いた。美しい娘だが毎日泣き暮らしていた様子で、見れば皆も同様だ。おじいさんは「どこから来たのだ」というので、「狩りに出たが道に迷ってここへ来たのだ。遅くなり帰るに帰れないでいたところ、煙が見えたので一晩泊めてもらおうと思って来たのだ」と言うと、おじいさんは娘に食事の支度をさせるのだが、娘は陰で涙をぬぐっている様子。皆食事が終わったころ、おじいさんは、「まだ少しは明かりがあるから、お客さん早く逃げてくれ」という。「この村ではどういうわけか、何人いても一晩でさらわれてしまう。今晩はうちの番なのだ。お客さんも巻き添えになるといけないので、早く帰れ」と拝んで頭を下げて言う。若い衆たちも「気の毒だがこういうわけだから、お客さん帰ってくれ」という。

 私は「一緒に死んでもいいから泊めてくれ」といって、自分の身の上話をすると、若い衆たちも村で起きている事件のことなどを話し、やがて夜も更けた。「毎日恐れおののいて寝ることもままならなかったが、今晩、夜中に川上から雷のような大きい音をたててさらいに来るだろう。それまででも良いから覚悟を決めて寝ることにしよう」と話し合って寝た。

 皆ぐっすり寝静まったが、私は何者が生きた人間をさらって行くのかと思い、なかなか寝付くことができず、「神様に正体を教えてくれ」といって、何者が来ても戦うつもりで家の外へ出た。

 私は水汲み場の川縁の草に隠れていたところ、何者かが川上から雷どころでない大きな音をたてて近づいてきて、自分の前に下り立った。「今だ」と思い跳びかかると、相手もびっくりして川上へ飛んで行く。振り落とされそうなのを必死で首っ玉にぶらさがって川上へずっと行くと、高い山があり、立派な家が建っていた。私はその家の庭に打ち付けられ、その拍子にその何者かは消えてしまった。びっくりして火の神様、川の神様、自分が祭っている神に拝みながらその家に入って行くと、おじいさんとおばあさんが座っていた。

 私も座り、おじいさんが顔をあげたところを見ると、今にも自分を食いそうな恐ろしい顔をしている。おばあさんも同じだ。私はこれまでのいきさつを話したところ、二人とも目つきも顔つきもおとなしくなり、おじいさんはこう言った。

 「聞きたくて来たのなら教えてやろう。お前の村では皆、神様を信じて拝んでいる。お前も親孝行で、正直者だというのを私はわかっている。私はどこの村でも人間たちが達者で暮らせるように天から下ろされてここにいる。ところが、ここの村人はクマでもシカでも魚でもとって食べていながら、何一つ神様に感謝する気持ちがない。それを怒った水の神が自分のところへ相談に来て、村人を何人かずつ運んで、反省すれば助ける、そうでなければ村を絶やしてしまおうという。水の神が運び役に村へ行って降り立ったところ、お前が隠れていて、こうしてお前がやってきたのだ。だから残った村長の親子だけでも謝って改めるなら、また元通りに村の再興もなるからと、お前が村へ戻ったら伝えるのだ。お前は心がけが良いので、自分のところへ来た証拠に宝物を与えよう」と言って立派な刀の切羽をくれた。

 おばあさんは立派な玉飾りをくれて、「お前が嫁さんをもらったら、これをあずけて、誰にも見せずに子々孫々受け継いで大事にしていれば、自分の村で病気がはやっても、懐からこれを出して見せれば、はやり病の神も退散するから」という。私は本当に喜んで、もらった神様の宝物を懐に入れて頭を下げると、「今その娘、水の神が来てお前を送りとどけるから」という。誰か入ってきたので見ると、立派な女神が入ってきてにこっと笑う。「さあ送ってあげるから」というので感謝して庭先に立つと、さっきの化け物が立っている。私はその首につかまって飛び上がり、高い山から下りる音といえば、今にも気を失って落ちるかと思いながら川下に戻って自分が隠れていたところまで着くと、その化け物神が私を下ろした。

 家に入ると、みなまだ寝ている。こっそり床に入ったが、その村人たちが今まで水の神も祭っていなかったのかと腹が立って火を焚いていると、家の人たちも目をさまし、「もう夜も明けかかっているというのに、自分たちはまだ生きている。お客さんが来たおかげで命拾いしたようだ」といって火のそばに来たので、「あなたたちは今まで火の神様、水の神、山の神、海の神を祭ったことがあるか」というと、そのじいさんも若い衆も頭を下げて「いや悪かった。昔は祭っていたが、自分たちの代になって、皆もしなくなったからと子どもたちにも教えなかった。神々のたたりで村が滅びるところだったが、お客さんが来たおかげで命拾いした。自分たちが悪かった悪かった」と泣きながら頭を下げた。

 それからおじいさんは火の神に謝り、川の神のそばに行って御幣を立てて「自分たちが悪かった」と謝り、山の神様でも海の神様でも御幣を立てて何回も何回も謝って神々を拝んだ。もう夜になったのでもう一晩泊まり、次の日も引き止めるのを、老父母が心配して待っているからと言うと、その家の娘が両親の間に行って何か言っている。何かと思えば「おかげさまで助けてもらったので、水汲みでも薪とりでもするので連れていってくれませんか」という。おじいさんはいろいろな宝物を出して横座に積んで「お礼だから持っていってください」というが、私は「そんなものはいらない。神様の気持ちさえ考えてくれれば、もらってももらわなくても神様が見ているんだから」といって断り、娘を連れて自分の村へ戻った。

 家に帰ると父母が心配して待っていた。私は両親に食事をさせてから、これまでのいきさつを話すと、両親も喜び、神様のおかげで嫁も来たと喜んだ。娘もよく働き、老父母の世話もし、私は安心して狩りをして皆を養っているうち、両親は年を取って亡くなり、その後子どもたちにも恵まれ、「神様のことは絶対に忘れるのではないぞ」と子どもたちにも村人たちにも教えてから死んだという、ある村のお話。



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