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41. 兄を助けて沖の神と戦う

話 者:織田ステノ
資料番号:34156
収録日:1981年
「私」:ポイヤウンペ
翻 訳:奥田統己
あらすじ:北原次郎太
サンプル音声

<あらすじ>

 わたしはどのように生まれたものかわかりませんが、物心付いた頃には姉さんに育てられていました。姉さんはとてもはたらきものなので、いつでもなんでも食べさせてもらいました。大きくなると、わたしも狩をして、クマやシカをつかまえてきました。狩の合い間には宝物の手入れをして暮らしていました。

 わたしもすっかり成長して若者になりました。いつも狩や宝物の手入れをして、変わらぬ暮らしをしていましたが、ときどきどうして自分が姉さんと二人きりなのか気になっていました。

 そうしていたところ、海の彼方から、神々の戦う音が聞こえてきました。戦いはとても激しく、本当の勇者が太刀を振っているらしく聞こえました。おおぜいのカムイ(神)たちが戦いに倒れ、魂の飛び去る音が絶え間なく響いています。その音を聞いていると、怒りの気持ちや哀れみの気持ちがこみ上げてきました。しかし姉さんは「わたしの育てたカムイ、弟ぎみよ。この音に耳を傾けてはいけませんよ。じっとして、あなたのチャシ、あなたの家を守るのですよ」と毎日わたしにいっていました。

 それでも、カムイたちがせめられて、死んでいく音を聞くと気の毒でなりませんでしたが、姉さんは外にも行かず、昼も夜もわたしの様子をみていました。

 そうしているうちに夏6年、冬6年が過ぎました。

 ある日、どうしたことか姉さんの気配がありません。見ると、姉さんは腕をまくらにしてすっかり寝入っていました。そのとき、どうしたことか海の彼方からカムイのやって来る音が荒々しく響いてきました。腹を立てているのか、村も世界もばらばらになりそうなほどすさまじい音でした。

 わたしは腹を立てながら宝物の手入れをしていました。この音はどこへ行くのだろうと思って聞いていると、わたしの方へ向かってくるということがわかりました。腹を立てながらそのまま聞いていると、海のまん中まで来たところで音が止まり、どこへいったかわからなくなりました。

 すると、とつぜん屋根の方からカムイの話す声が響きわたりました。

 「これ、ポイヤウンペよ! わたしはアトゥイスッタオカチカ(海底に住む鳥)というカムイだ。お前は耳がついていなくて宝の手入れなんぞしているのか! お前に人間らしい心があるならよく聞け。お前の兄オイナユピが沖の国でせめられている音が気こえないのか? お前の兄は、沖のカムイのよくない者が人間の村を荒らそうとしているのに気づいて、天の世界から降りてきたのだ。お前の兄はこういった。『沖のカムイよ!偉大なカムイが理由もなしに人間の大地を荒らすのですか! 人間ばかりではない、偉大なカムイたち、弱いカムイたち、虫までも殺して、それで自分のためになると思うのですか!』と昼も夜もよびかけのだ。

 すると沖のカムイは『俺様は誰よりも勇敢で誰よりも偉いのだ。人間の大地を壊してやれば、どんなカムイだって俺様にかなわないとわかるだろう』いった。お前の兄が『そんなことを考えてはいけません!偉大なカムイも弱いカムイもみんな殺そうなど、なんとむごい!』と言い聞かせたが、とうとう戦いになったのだ。天のカムイたちも怒ってお前の兄に味方したがみんな斬られてしまった。そうして夏6年冬6年戦っているのだ。

 今はもう、お前の兄は骨だけになって死にかけている。それでお前の兄は『わたしの弟にこのことを伝えてくれ。そうすれば、わたしが殺されても弟がこの悪いカムイを懲らしめてくれる』と頼んだのだ。そのことをお前に伝えに来たのに、お前は何をしているのだ!」

 といって、わたしをののしりました。

 わたしはこれを聞くと、怒りにわれを忘れました。姉さんの方を見ると、まだ深く眠ったままでした。姉さんは、おそらく兄さんが戦っているのを知っていて、わたしに知らせないようにしていたのでしょう。いまのいままで、兄さんが斬られる音を何も知らずに聞いていたのだと思うと、とても辛くなりました。

 わたしは手入れ途中の宝物をかたづけ、カムイの鎧を身に付けました。手や足にも鎧をつけ、カムイの太刀を帯にさしました。カムイの笠をかぶって外に出ると、わたしの守り神に「これから兄さんを助けにいきますよ!」と呼びかけました。すると、何とした事でしょう、山々がバチバチと音を立て、世界が割れるような音がして、わたしは海の上を飛んでいきました。戦いの場所に着いてみてみると、

 なんということでしょう、兄さんが、骨ばかりになって苦しそうに刀を振っていました。『ウェンカムイめ、さあ、私を斬れ!わたしの弟が来たら、お前は懲らしめられるのだ!さあ殺せ!』というと、沖の化け物、トゥムンチカムイは『俺様は、お前たちカムイが天から来ても斬ってやったのだ。お前の弟の人間が来たならば、斬って殺してやろう!』といいました。

 わたしは降りていって兄さんをかかえて連れ去りました。離れたところに行って兄さんの傷をなおすと「さあ兄さん、お帰りなさい。そのあとでウェンカムイはわたしが地獄に落としてやりますから」といったので、兄さんは音を響かせて帰っていきました。

 それから、わたしはもどって、悪いカムイに斬りつけました。「さあ、カムイの勇者よ!わたしは人間だ。わたしを斬ってみろ!」と言いながら戦いました。トゥムンチカムイは、石にへばりつき、砂にもぐったりして逃げるので、石ごと、砂ごと斬りつけてやりました。ところが、いくら斬っても太刀があたりません。今度は魚の群れに逃げ込んだので、魚ごと斬ってやりましたがあたりません。

 そうしているうちに、トゥムンチカムイはかなわなくなって、泣きながらこういいました。「ポイヤウンペよ、わたしが悪かった。これからは魚がたくさんいるようにして、人間もカムイも食べられるようにする。仕事をするにも、何も心配ないようにするから、命だけは助けてくれ」といって、ひざまずいてわたしに礼拝しました。わたしはあまりにも腹が立っていたので「お前はわたしの兄さんを斬っておきながら、わたしを甘く見てそんなことを言うのか!」といいながら斬り続けましたが、トゥムンチカムイはどこまでも逃げていきます。そこで「お前はほんとうにあやまっているのか?またこんな悪さをしたら、地獄に突き落とすぞ!」といって何度もあやまらせました。トゥムンチカムイは「二度としません。人間の勇者よ。ポイヤウンペよ」と言うので、そこで戦いをやめて、わたしの村に帰ってきました、とポイヤウンペが語りました。



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