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33. 悪い姉に殺されそうになったが滝の神、水の神に助けられた娘の話

話 者:織田ステノ
資料番号:34145
収録日:1981年8月10日
「私」:オタスッの村の息子→上の娘→下の娘→滝の神→水の神→下の娘
翻 訳:安田千夏
サンプル音声

<あらすじ>

 父と母がいて、姉がいて、その弟が私でした。姉は母の仕事を手伝って暮らしていましたが、そのうちに妹が生まれました。その子は神の子のように可愛いらしく、皆でその子を可愛がって暮らしていましたが、ある時父が私にこう言いました。「おまえの妹は人間ではなく、神の子孫である。オタサの村に住むおまえの叔父にはひとり息子があって、妹とは幼いときからの許嫁(いいなずけ)なのだよ。おまえは妹を立派に育て、大きくなったらオタサの許嫁と結婚させ、嫁ぎ先とは仲良く暮らしなさい」。それからしばらくすると父も母も死んでしまいました。

 (話者が姉に替わって)

 私も働き者なので、弟と一緒に妹を育てて暮らしていました。弟は山猟から帰って来ると、私が妹に充分食べさせず、食べ物を独り占めしているかのように言って怒るので、私はそれに腹を立てていました。妹はもう大きくなり、家の仕事もできるようになった頃、弟はこのように言いました。

 (話者が妹に替わって)

 「おまえはオタサに住む男と許嫁なのだよ。大きくなったらそこに嫁ぐのだ。だから結婚してからも不自由しないように、針仕事の練習をしなさい」。そう言って姉さんに上等の布や針や糸などを出すように命じると、姉は嫌な返事をしつつ言う通りにしました。作り方がわからないので姉に訊くと、「掛け竿からぶら下がっている着物を見ればわかるだろう。目がついているならやりな!」と言いました。姉はどうしてこの頃私に冷たいのだろうと思いながらも、着物を見ながら一生懸命針仕事の練習をしました。兄が山猟から帰って来て針仕事の成果を訊くので、作ったものを見せると「上手だ」と口では褒めながら陰では下手くそなので笑っている様子を見て怒りながら、それでも毎日一生懸命に練習すると、針仕事も随分上達しました。

 もうすぐオタサに連れていこうと兄が言っていたある日のこと、兄が山猟にいっている間に姉がオオウバユリ掘りの準備をしてこう言いました。「妹よ、針仕事ばかりに精を出していて、山菜に関する知識がないと結婚しても追い出されてしまうよ。オオウバユリ掘りに行こう」と誘われたので、準備をして出掛けました。途中にオオウバユリが見事に群生するところがありましたが、姉はどんどん山奥に入って行きます。後ろからついて行くと、私たちの村を流れる川の上流に高い神の山があり、姉は毎年そこへいってオオウバユリ掘りをするのだと言います。登っていってみても、オオウバユリはどこにもありませんでした。姉は「早く来てここを見てごらん」と私を誘います。見るとそこは滝の上で、水がごうごうと音を立てて滝壺に流れ落ちています。姉の指し示すほうに身を乗り出してみると、突然姉は私の帯のあたりを掴んでこう言いました。「私のほうが年上であって、先に結婚しようと思っていたのに、おまえが先に結婚するのは許せない。おまえを殺して、私が代わりにオタサの神のところに行くのだ」そう言って私の体を揺らしました。「姉さん、命ばかりは助けてください。確かに姉さんが年上なのだから、オタサの神とは姉さんが結婚すればいい。私は兄さんと暮らしますから助けてください」と言うと姉は「生かすつもりならこんな所まで連れて来たりはしないんだよ。おまえはひどい死に方をして悪神になればいい」。そういって私を滝の上に落とし、私はそれきりわけがわからなくなってしまいました。

 (話者が滝の神に替わって)

 私は滝の神であって、毎日彫り物をしながら人間の国を守って暮らしていました。ある日突然「姉さん、命ばかりは助けてください」という女の泣き声が聞こえ、私の家の屋根(滝の上)から落とされ、声が聞こえなくなったので驚いて、彫り物をかたづけてから外に飛び出すと、神のような美しい娘が岩にひっかかりながら死んで滝壺に落ちていく様子を見ました。私は飛んでいってその娘の亡骸をつかまえ、水の神である姉のところに連れていきました。そしてこの娘を生き返らせてくれるように頼みました。

 (話者が水の神に替わって)

 弟が連れて来た娘は、もう死んで肉が裂けてしまっていたけれど、何とか頑張って毎日薬を作って傷に塗って看病していました。何年かすると娘は意識を取戻して元気になりました。兄のことをしきりと心配しますが、「歩く練習をして、何でもひとりでできるようになったら兄さんに会わせてあげましょう」と慰め励ましてリハビリに努めさせました。

 (話者が再びオタスッの下の娘に替わって)

 神の女性の家には、一日に2度も3度も立派な男性がやって来て、私の様子を見ては帰っていくのでした。私は自分で何でもできるようになったので、水の神はこのように言いました。「あなたがここに来て意識がなかった期間は、1月や1年ではないのです。もう何年も経ってしまいました。あなたの兄さんは、あなたがいなくなってから山の中を歩き回ってあなたを探し続けました。でもとうとうあきらめて『妹が死んだのならば私も死ぬ』といって宝物の前で着物の袖を頭に被り寝込んでしまいました。でも神様たちから守られているので、まだ息をしている状態なのですよ。それからあなたの姉は、あなたを殺してから家に帰り、兄さんには『オオウバユリ掘りの途中で妹が行方不明になった』とさも心配しているかのように装って、嘘泣きをしていました。翌日、兄さんがあなたを探しに出た後で、あなたが作った縫い物を全部持って、オタサの神のところに行きました。そして自分が許嫁だと嘘をいって結婚を迫りましたが、オタサの神はその様子に腹を立て、話もせずに夜も別々に寝ていました。すると夜中にあなたの姉は夜這いに来たのでオタサの神はすっかり腹を立て、あなたの姉の嘘を見抜いて殺し、村の下端に捨ててしまいました。オタサの神はそれからあなたの兄のところにいってわけを尋ね、あなたが行方不明になったことを知ると、ショックのあまりオタサの神もあなたの兄と同じように着物の袖を被って寝込んでしまいました。そちらも神から守られてようやく生きている状態です。あなたは私の弟である滝の神と結婚し、先にできた女の子を連れて兄さんに会い、兄さんをなだめて心の傷を癒してあげましょう」。そのように言われても、子どもはいつになったらできるのだろうと思って泣きながら暮らしていると、滝の神は食事時に毎日家に来て、一緒に眠っているとすぐに私のお腹が大きくなって女の子が生まれました。可愛らしい女の子なので、水の神と滝の神はすっかりその子に心を奪われ、可愛がって暮らしました。

 そしてその子がはいはいをするようになった頃、ふたりの神が相談してオタスッの神を呼び寄せようということになりました。水の神が酒を造り、滝の神が木幣を作り、酒宴の準備ができました。私は兄に会いたくて泣いて暮らしていましたが、ふたりの神から「おまえはもう人間ではない。神なのだから、兄さんと暮らすことはできないのだよ。兄さんが来ても決して自分の寝台から出て来てはいけないよ。子どもが炉の近くにいても、決して来るのではない。おまえの兄さんがたった一度おまえを見て、それで終わりだ」。そう聞いているうちに、兄さんがもう招待されて家に入って来ました。見るとあんなに容貌の美しい兄さんであったのに、すっかりやせ細って骨だけになってしまっていました。いざなわれて炉の神座側の角の席に座り、滝の神と兄さんは互いに拝礼をし、私の旦那さんである滝の神は兄に向かってこう言いました。「あなたの妹は人間ではない、神なのです。わかりましたか」というと、兄は泣いて拝礼し、私の旦那さんに感謝しました。私の娘は神の意思であるのか、私のほうには来ずに兄のそばで遊んでいました。神々が家に入って来て儀式をし、それが終わると帰っていきました。兄は娘を連れていくように言われ、私の娘を背負って帰っていきました。兄に会えたことを……

(途中で終わり)



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