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26. イアルモイサの村で人が行方不明になる話

話 者:織田ステノ
資料番号:34139、34140
収録日:1981年7月29日
「私」:イクレスイェ
翻 訳:高橋靖以
サンプル音声

<あらすじ>

 私は本当のニパ(立派な男性)であった。村の人たちを大切にしていた。山に行ってシカでもクマでもとると分け与えた。魚も老人たちに分け与えた。「決して悪いおこないをするな」と村人たちに言い聞かせていた。

 聞くところによると、イアルモイサの村では狩人たちが山に行くと戻ってこない、探しに行った人たちも戻ってこないという。いつか行ってみようと思いながらいたが、その村がなくなりそうだという噂を聞いて私は腹をたてた。ある日山に行くかのように外に出て、川伝いに行って尾根を下り、イアルモイサの村の上手へ着いた。村の方へ行こうと思って下り、小さい尾根の上に上がったところ、どこからか木を倒す音が聞こえた。「なぜこの遠い村の奥で木を倒す音が聞こえるのか」と思い、木の陰に隠れて、木を倒す音がする方向へ忍んでいった。沢の中で木を切っている者を見ると、裸の老人が木を倒し石を倒していて、「イクレスイェ、来たらこのように骨をかみくだいてやる」と言っていた。

 私は神に祈りながらながら、弓を出し矢を出して悪神の胸を射たところ、その悪神はクマの姿になった。私はそのクマの喉元を射ると、その悪神は沢の底へ突き刺ささるのが見えた。私はひどく驚き、怒り、おそれながら、「悪神が私が来るのを察知して、刃物をとがらせている様子がこのようにあることか」と思いながら、村の方向へ下って、村の真中にある家へ着いた。

 干し竿をたたくと、人が起きて戸をあけた。見ると美しい女性で、私を見るとすぐに引っ込み、「外に人間ではない神のようなニパがいます」と細い声で言った。すると年長者たちが「村人たちが消え失せてしまうということをどこかの村の人たちが聞いて訪ねてきたのか、座をととのえて招き入れなさい」言った。私は家に入ると、老人が私に拝礼して「どこからきたニパですか」と聞くので「今日は山に行くのに外に出たのですが、道に迷って歩き回ってこの村の奥に下りてきました。戻ろうとしても私の村は遠いので、この村の方へ下ってきたのです」と言うと、そのおじさんは私に拝礼した。会話をしているとおじさんは涙を流すので「どうして涙をながすのですか」と聞くと、「村人や私の息子が山に行ってシカでもクマでもとって何も心配せずにいましたが、近頃は山に行った者が戻ってきません。足のはやい者が捜索しに行っても戻ってきません。みんな食べられてしまったのか、どうしたのか戻ってきません。私の子供たちも探しに行ったが戻ってきません。一人も帰って来ないので毎日泣いているのです」とおじさんは言った。

 私は食事を出され、家の人も食事をした。それから娘は神窓の下に寝床をこしらえて私をやすませた。家の人たちも眠りについた。私は非常に驚きながら、怒りながら「神の姿をしたものが今まで人間を食べていたのか」と考えた。「明日になったら山に行って悪神を処罰してやろう」と怒りながらいたが、このように眠ろうとは思わなかったのに、神窓から何かが話しかけるので見ると、悪いチャチャ(クマ)がいて「イクレスイェ、この村を壊しておまえを襲おうと思ったのに、思いがけず私の側におまえが来て、おまえが私を殺した。神々が私を怒って下界(ポナモシ)へ追いやるといわれた。私のニパ、私の勇者よ、神の末座にいられるように伝言をしてください」と私に話しかけたように思われた。私は目が覚めてひどく腹をたてながら、私は起きて身支度をして火の側に座っていた。家のおじさんも起きてきて、火箸をとって灰をいじりながら、怒って次のように言った。「山の端の神が、イクレスイェの勇気を神々が噂するのに腹をたてて、私の村の若者や私の子供を食べてしまったということを昨晩話した。神々よ、悪神を下界へ追いやってください。私の子供たち、村人たちを食べたものがどうして神の末座におかれると思うのか。」私はそのおじさんに拝礼し、「この村はどうしたことか、山に行った者が戻ってこないという噂を聞いて、昨日この村の川の上流に来て下っていった。すると悪神が「イクレスイェ、このようにしてやる、どのように勇気のある者でも噂が立つ者でも骨をかみくだいてやる」と言っているので、私は腹をたて、胸を射た。はじめは老人の姿であったものが大きなクマとなって、さらに喉元を射ると、沢の底に突き刺さった。その様子を見て私は安心して下ってきた。年長者たちで二三人歩ける者がいたら、悪神のところへ一緒に行って、悪神をポナモシへ追いやろう」と言った。するとそのおじさんは泣きながら私に拝礼して「ニパが来たので悪神を処罰されたのならば、私の子供たち村人たちは、かわいそうに悪神が食べてしまったのか、どうであったのか」と年長者たちは声をかけあった。

 年長者たちと一緒に川を遡って、悪神のところに行って、悪神を土とともに叩き、草とともに叩き、屍を腐った木々に分配した。「私の子供たち村人たちを食べてしまった悪神なので、下界へ追いやるのだ」とニパたちは言って、悪神の頭を土とともに叩き、草とともに叩き、まきちらした。そして私は安心して、「私は自分の家に帰ります。気をつけて戻りなさい。これからはおそれることもないのです。村長にこのことを伝えてください」と言った。村の人たちが戻ると私も自分の村へ戻った。

 私の村の人たちは「私たちのニパが戻らずに心配したが、どこで泊まって今日戻ったのか」と言って大勢で家のなかに入ってきた。悪神を処罰したことを話すと、「ほんとうに驚いた、私たちのニパがこのように勇者なので、悪神に勝ったのならば良かった」と言った。数日後皆が家に入ってきて「見たことのないニパが娘を連れて、こちらへ向っている」と言ったが、どうとも思わずにいると、ニパたちと一人の娘がやってきた。「家に入って休みなさい」と言うと、村人たちが座をととのえた。見るとその娘は私が泊まった家の美しい娘だった。そのニパたちは私に拝礼して「私たちのニパのおかげで悪神に勝っておそろしいこともなくなり、安心してくらしています。感謝します。そこで、私の娘を杵つき、薪とりにでも使ってください」と言った。それならばと私はその娘に食事の支度をしてもらった。そしてニパたちは帰っていった。

 それから私は山でクマでもシカでもとり、私の奥さんも働き者で、何の心配もなく暮した。やがて男の子が生まれた。一月か二月かたつと、舅たちが訪ねてきた。男の子の次に女の子が生まれた。子供たちをかわいがり、成長すると山に連れて行って狩りを教えた。舅たちが年老いたので、舅たちのところへ男の子と一緒に行って、男の子に舅たちの後を継がせた。それからも子供に恵まれた。その後、一番年上の子供のところを訪ねると、成長しておじいさんやおばあさんを大事にしてくらしている。「このように山の端の悪神を処罰したのだ。何かの時には「神というもの」と言って祈り、神を忘れるな」と子供たちや村の人たちに教えて私は年老いるようです、とイクレスイェが語った。



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