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20. パナウンペとハルニレの木

話 者:織田ステノ
資料番号:34127、34144
収録日:1980年5月29日
「私」:パナウンペ(「川下の者」の意味)
翻 訳:安田千夏
サンプル音声

<あらすじ>

 俺たちはペナウンペ(川上のもの)とパナウンペ(川下のもの)。男ふたりのきょうだいだ。どうして俺たちが生まれたのかわからず、道具というものを知らなかったので、えものをとるために山に猟にいっても、げんこつで熊や鹿をなぐり、木を伐るときもげんこつでなぐって木を倒していた。そしてえものをむしゃむしゃと食べ、残った骨はそのまま捨てていた。

 ある日、今まで見たこともないくらいに大きな熊が俺たちを食べようとおそってきた。ふたりがかりでげんこつで殴りつけたが、いくら殴っても効き目がない。たまらずに俺たちは逃げ出した。でも熊はどこまでも俺たちを追いかけて来る。いくつも山を越え、何日も何日も休まずに走って逃げ続けた。でも熊がやっぱりどこまでも追いかけて来る。

 そのうちにペナウンペの姿が見えなくなってしまった。俺はひとりで逃げ続け、湖を泳いで渡り、大きな湿原に足を踏み入れると、体がぬかるみにはまってうまく逃げられなくなった。熊はすぐ後ろまで迫って来ている。湿地の真ん中を見ると、大きなハルニレの木が立っているのが見えたので、そこに向かって逃げていった。ハルニレの木によじのぼり、木のカムイ(神)にわけを話して助けを求めた。すると熊は木の下まで来ると、死んだように動かなくなってしまった。

 木の上でお腹を空かせてふるえて泣いていると、木のてっぺんのほうから木のカムイの声が聞こえて来た。「これパナウンペよ、よくききなさい。おまえたちがどうして生まれたのか教えてあげよう。おまえたちは人間ではない。昔、村造りの偉いカムイが天の国から地上におりて来たのだ。そして人間の村を作り終えて、ひと休みをしたときに、タバコを二服飲んだのだ。そして一服目の灰を東のほう、二服目の灰を西のほうに捨てた。偉いカムイが捨てたものが腐って土になるのはもったいないので、その灰からおまえたちが作られたというわけだ。人間はえものを獲るときは弓矢などの道具を使うものであり、またえものの肉はただ食べただけで捨ててしまっていいものではないのだ。きちんと魂をカムイの国に送り返す儀式をしなくてはならない。おまえたちがそうした作法を全く知らないので、熊のカムイたちが怒ったのだ。そして熊の中であまり偉くない、山の下はしに住むやせ熊が山や海の悪いカムイに加勢をたのみ、大きな熊の姿に化けておまえたちをおそったというわけだ。しかしその熊はもう罰を受けて死んでしまった。ここから東のほうにいくと平原があるので、そこに家を建てて暮らしなさい。そして人間たちに私のいったことを知らせなさい」。

 それを聞いて俺ははじめて自分の生まれたわけを知ることができたのだった。そしてハルニレのカムイの言う通りにそこから東のほうに行くと、平原があったのでそこに家を建てて暮らした。ハルニレは気性の激しい木なので天から湿地におろされた木であり、家を造る材料には使えないとハルニレのカムイが言っていたのでその通りにした。

 そしてそれからは弓矢などの道具を使って狩りをするようにし、とったえものはていねいにカムイの国へ魂を送り返す儀式をするようにした。どこからか人間がやって来て家の前を通りかかると家に泊め「寂しいから一緒に暮らさないか?」とさそった。やがて家の近所にみんな家を建て、大きな村ができた。どこからか気だてのよい娘がやって来たので、結婚して子供ができた。そして村人たちや子供たちにハルニレのカムイの教えを言い聞かせながら幸せに暮らした。



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