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18. シナノキの皮はぎに行き、山すそに住むクマに襲われた話

話 者:織田ステノ
資料番号:34126
収録日:1980年5月28日
「私」:オタスッの村長〜その奥さん
翻 訳:安田千夏
サンプル音声

<あらすじ>

 私は本当に立派な村長で、立派な女性と結婚して暮らしていました。ふたりとも働き者で何不自由ない暮らしをしていましたが、ただひとつ子どもがいないことだけを寂しく思っていました。

 (話者はその妻に代わって)ある時狩りに行って2、3日帰って来なかった夫が帰宅すると、このように言いました。「もう冬が近いので、家の壁や屋根を直すのに縄がたくさん必要になる。おまえは山に行って、縄の材料になるシナノキの皮をたくさん剥いで来ておくれ。山道を行くと川の上流に手ごろなシナノキの若木がたくさん生えたところがある。そこへ行って採って来ておくれ」。そして旦那さんはまた狩小屋を作りに出掛けていってしまいました。

 天気のいい日に、私は山刀と荷縄を背負って出掛けていきました。すると旦那さんのいった通りに、川に沿った高台にちょうど剥ぎ頃の若いシナノキの林があったので、そこで皮剥ぎに精を出しました。日が暮れようとする頃に荷物をまとめ、ふと川の底のほうに目をやると、なんとクマが私の方に向かって登って来るではありませんか。そのクマといったら、体中に毛が全く生えておらず異様な姿をしていて大変気味が悪いのです。どこに逃げようにも、逃げる暇を与えられないように思って立ちすくんでいると、クマはもう私に手が届くところまでやって来ました。そこで私は、シナノキの皮をまとめた荷物を思い切り蹴り落としました。するとクマは、その荷物を抱えたまま悲鳴をあげて川の底に落下していき、何かに衝突する音が響き渡りました。恐ろしくて泣きながら、神に助けを求めて祈りました。家に帰るときも、クマが死なずに私をどこかで先回りしているような気がして恐ろしくてならず、木の陰に隠れながら家まで戻って来ました。神様に祈りながら一晩ひとりで過ごし、翌日旦那さんが帰って来たので訳を話しました。旦那さんはひどく驚きあきれて、「何だか気が急くので帰って来てみたら、そんなことがあったのか。神がいなければ殺されてしまっていたのではないだろうか」といって、怒りながら祈りの儀式をしました。その翌日、旦那さんがクマの落ちたあたりを見に行くと、あのクマがシナノキの荷物を抱えたまま死んでいたということでした。旦那さんは腹が立ったので、クマの頭を腐れ木の上に置き、罰して帰って来たといいました。その夜見た夢には、げっそりとやせた、真っ直ぐな髪のみずぼらしいじいさんが出て来て、今にも死にそうな様子でこのようにいいました。「これ人間の娘よ、私は山の下端に住むクマじいさんである。クマたちは人間の村に遊びにいって帰って来ると、オタスッの村長の妻であるあなたのことばかりを褒めるのだ。私はそれに腹を立てた。神が人間を守っているものだというのに、なぜ神は自分を軽んじるようなことをいうのだと文句をいうと、神々は『ならばあなたはオタスッの村長の奥さんを殺して背負って来なさい。そうしたら一番の上座にあなたをおいてあげましょう』というのでなおさら腹を立てつつ暮らしていました。あなたたちが2人でいると、逆にこっちがやられてしまうと思ったので、旦那さんは山に行かせ、あなたがひとりでシナノキの皮剥ぎにいくように仕向けました。ところが私はあなたから川の底に落とされ、みじめな死に方をすることになったのです。神の国にシナノキの皮を抱えたまま帰ると、他の神様たちからさんざんに悪口をいわれました。あなたたちが、私が今まで通り神の末席にいられるように言葉を添えてくれたならば、今後はこのような悪さはせずに、あなたたちの背後に憑いて守り、子宝にも恵まれるようにしてあげましょう。悪い神を悪いままにしておくと、恐ろしいものですよ。どうかそのようにしてください」朝起きると旦那さんも同じ夢を見たようで、怒りながら神に祈り、悪神に捧げる木幣と酒粕を持って外に出ていきました。帰って来ると、あの悪いクマに木幣を酒粕を捧げ、送ってやったのだといっていました。その夜また夢を見ました。あのみずぼらしいじいさんが髪を切りそろえ、笑いながら私に向かってお礼をいっている夢でした。それからしばらくは家の外を出歩くのも恐ろしかったのですが、やがて元通りになり、つわりが来たと思うと子どもが生まれました。それからもたくさんの子宝に恵まれ、女の子たちには女の仕事を教えましたが、シナノキの皮剥ぎをするときや、何をするときでもまわりをよく見回してからにしなさいとよく言い聞かせました。旦那さんも男の子たちに「お母さんの憑き神が弱ければ、おまえたちの母はいなかった。神様はいるものなのだから、神を敬うことを忘れないようにしなさい。そして儀式のときは一番先に山の下端のじいさんに祈るようにしなさい」と教えて、もう年を取って死んでいくのですとオタスッの村長の妻が物語りました。



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