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14. 家の守り神から呼ばれた女

話 者:織田ステノ
資料番号:34120
収録日:1980年2月23日
「私」:ある村に住む若い女性
翻 訳:安田千夏
サンプル音声

<あらすじ>

 私は父と母、兄と一緒に暮らすひとり娘でした。私はどういうわけか人が何かを落としたりして驚くとイムをする子で、どうしてそんなことをするのかも自分ではわからずに、家族も不思議がっていました。父や母が年を取ってからは、兄が山猟に精を出し、私は兄から両親の世話をするように言いつかっていたので言われた通りに世話をして暮らしていました。

 ある日、兄が突然にこういいました。「妹よ、この村に流れる川を遡っていくと男の人がいるので、遊びに来たといって訪ねていきなさい」。今まで薪を採るのでもそんな川の上流までいったことはないというのに、もう日が暮れようという時になって何故そんなことを言うのだろうと思ったけれど、言われた通りにたくさんの松明を持って川を遡っていきました。もうすっかり日も暮れてしまったけれど、私の進む先は視界が開けて照り輝いていたので間違いなく行くことができました。

 やがて山の中の平原にたどり着くと、平原の真ん中に一軒の家が建っていました。兄が言った通りに何の迷いもなく家の中に入って客座に座ると、右座には神のような男の人が座っていました。私が「このようなわけで、兄が私を使いに出したのでやって来ました」と言うと、その男の人は承諾の咳払いをしました。その途端私は家を飛び出し、川を下って自分の家まで走って帰って来てしまいました。

 家の中では兄が泣いており、私の無事な姿を見ると抱きしめて「妹よ、私は何故あんなことを言ってしまったのかわからずに後悔して泣いていたのだ」というので、自分の見て来たことを説明しました。父は「何かの神が、息子にわざとそのように言わせて娘を呼び寄せたのだろう。明日の朝早く起きて、ふたりで見て来なさい」といいました。床についても私はあの男性のことが気がかりで眠れませんでした。

翌朝兄と連れ立って川を遡っていくと、あの山の中の平原に着きました。でも確かに家が建っていたところには何もありません。家のあった場所を掘ってみると、そこからは家を守る木幣が朽ちて芯棒だけの姿で出て来ました。きれいに拭って、背負って家まで帰って来て神窓のところに置き、家に入って父に見て来たことを話すと、父は「その木幣は、そこにかつて建っていた家を守る神だったのだ。皆死んでしまい、祭る者がいなくなり、土を被っているのが嫌だったので私たちの娘を呼び寄せたのだろう。早く新しい削りかけを着せ、神の国に帰れるようにしてあげなさい、息子よ」と言いました。そこで木幣や供え物を準備し、父と兄で神を送り返す儀式をおこないました。

 その後私はあの木幣の神に恋をし、何をしても手につかずに暮らしていました。そのうちに父と兄と私はあの神の夢を見ました。私と会ったときの姿で「これ人間の娘よ、おまえは実は人間ではないのだ。神がおまえの母を好きになり、生まれたのがおまえだったので、おまえは神の子孫であることの明かしとしてイムをするのだ。神がイムをさせていたのだ。私はここに建っていた家の神であったが、家の者が皆老死してしまい、誰も祭る者がいなくなったので、神の力で人間の心を探っていた。おまえの兄が山を歩き回っているのを見て、その妹であるおまえのことを知り、好きになってしまったのだ。そこであまり年を取らないうちにおまえを神の国に呼び寄せようと思う。おまえの兄に嫁が来たら、神の国に来るように」と言いました。

 父や兄も同じ夢を見たので全てを理解し、父はいつかその時が来ても兄に泣かないようにと言い聞かせて暮らしていました。そのうちに父や母は老衰で死んでしまい、兄にはお嫁さんが来たので私は神に呼ばれ、神の国に行きます、とひとりの女性が物語りました。



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