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7. 犬の神様からの授かりもの

話 者:織田ステノ
資料番号:34100
収録日:1979年5月29日
「私」:ある村のアイヌの男性
翻 訳:安田千夏
サンプル音声

<あらすじ>

 私はある村にくらしているアイヌの男性です。とてもはたらきものの奥さんがいて、私も狩りが上手なので、何ひとつ不自由に思うこともなく暮らしていましたが、ただひとつ子どもがいないことだけをさびしく思っていました。

 ある時白いめす犬が一匹迷い込んで来たので飼うことにし、夫婦でまるで子どものようにしてかわいがっていました。ある時めす犬のお腹が大きくなり、子どもができたようです。私が山猟にいくとき犬はいつも一緒に行き、狩りを手伝ってくれていたけれど、おす犬が来た様子もありませんでした。いつのまにそんなことになったのだろうと、私はちょっと気味悪く思いました。

 私は今まで何回も和人の村に交易に出かけていき、和人の殿さまとも親しくしていたので、また行こうということになって、舟に狩りで得た毛皮などの交易用の荷物を積み込んで、妻に留守のことを頼んでひとりで舟をこぎだしました。するとあの犬が舟にとびのって来て、一緒に行きたそうにするではありませんか。妻は心配して犬を置いていくようにいいましたが、私は「行きたいからこんなことをするのだろう」と妻を説得し、犬と一緒に行くことになりました。本当は気味が悪いので、向こうに犬を捨ててしまおうという思いが少し私の中にあったのです。

 和人の村の近くまで舟が来ると、和人たちが大勢で舟を引き上げてくれました。殿さまは「毎日海を見て、旦那さんが来るのを待っていたんですよ」といって再会を喜んでくれました。そして連れて来た犬にお産が近い様子を見て、大変だったろうとやさしくいたわってくれました。殿さまたちといろいろな話をしてごちそうを食べ、お酒を飲んで何日か楽しく過ごしてから、犬のお産のことも気になるので帰ることにしました。山ほどのお土産を舟につみ込んでもらって帰ろうとすると、どうしたことかあの犬の姿が見えません。心配して探しても見つからないので、とうとうあきらめて殿さまたちに「また来年も来るから、それまでにもしあの犬を見かけたら世話をしてやってください」と頼んで帰ることにしました。

 家に帰りつくと、妻は「私たちの犬はどこ?」と訊くので、理由を話すと妻はすっかり怒ってしまいました。私は私で、捨ててもいいかなと思っていたとはいえ、山猟を手伝ってくれ、とても助かっていた可愛い犬でしたから心配する気持ちもありました。でもどうすることもできないので、せめてもと思い神へ祈りの儀式をするときに犬の無事を神様に頼んでおきました。それからまた狩りに精を出して、翌年にはまた沢山の毛皮などを持って交易にいくことになり、妻は犬が心配なので一緒に行くといいましたが、私はひとりで出かけることにしました。

 また和人の村にいくと、前と同じように喜んで出迎えられ「アイヌの旦那さんよく来てくれました。あなたの犬のことですが、旦那さんが帰ってしばらくするとお産を終えて、すっかりやせ細って私たちのところにやって来ました。えさをやり、お腹がいっぱいになるとどこかへ走り去っていってしまうのです。ある時家来たちに追っていかせると、海岸にある海に向かってそびえ立つ岩山に登っていきました。犬はその岩山の中ほどにある洞穴に入っていってしまい、そこはとても人間が追いかけていける場所ではなかったので家来たちは帰って来たのだといいます。今でもえさを食べに来てはその岩山に帰っていくのですよ」というのです。何日かそこに泊まっているうちに聞いた通り犬がやって来ました。えさをもらって食べながら、犬は頭を上げて私を見つけると涙を落としていましたが、食べ終わるとまた岩山に帰っていってしまいました。みんなで犬についていって、今日こそ仔犬を降ろそうといって岩をおし広げて洞穴に入っていきました。すると、先に入った人たちから歓声があがりました。「仔犬ではない、人間の子どもだ!この犬は神さまで、子どもは神さまからの授かりものだ!」大騒ぎの中で降ろされた子どもを見ると、神の子どもらしく立派な顔つきをした玉のような人間の男の子が2人でした。私たち夫婦に子どもがないことを犬の神が知り、子どもを授けてくれたことを悟り、犬を捨てようと思った自分を本当に恥ずかしいと思いました。「私が悪かった、犬よ!」そういって犬を抱きかかえてなでてやりました。翌日帰ろうとすると、殿さまは「神の子どもをひとり分けてくれ」といいましたが、それは断り「子どもが成長したら私の代わりに交易に来させましょう」と約束し、帰途につきました。

 家に帰ると妻が飛び出して来て、泣いて犬を抱きかかえ、そして2人の子どもを見つけたときの喜びようは大変なものでした。欲しくて欲しくて仕方がなかった子どもが自分たちの家にやって来たのですから。そして神へ感謝の祈りを捧げていたところ、あの犬は神座で丸くなって眠っていると思ったら、眠るように死んでしまったのです。ていねいに送りの儀式をして眠りにつくと、その夜夢を見ました。神々しい姿をし、髪を切りそろえた女性が私にこのようにいいました。「アイヌの旦那さん、よく聞いてください。私はあなたたちが飼っていた犬ですが、じつは犬ではなくオオカミの神の娘なのです。あなたたちは本当に私を可愛がってくれるので、何とか子どもを授けてあげたいと思い、このようなことをしたわけです。これからは儀式のときに一番最初にオオカミの神に祈ってくれたならば、これからもずっとあなたたち夫婦、そして子供たちを私が守ってあげましょう」そういう夢を見て、私は全てを悟りました。それからは言われた通りにオオカミの神に一番最初に祈ることを忘れずに暮らしました。それからは狩りにいっても今まで以上に猟運に恵まれ、私の子どもたちもさすがに神の子孫なので狩りがとても上手で、「お父さんは休んでいていいよ」といわれるので皮張りなどの仕事をしていると、息子たちはどんどんえものをとって来てくれ、何不自由なく暮らすことができました。何年かしてから2そうの舟を列ねて息子たちと一緒に交易にいくと、なつかしい殿さまたちも大喜びをしてくれました。私は年を取ってもう来られなくなるけど、子供たちがこれからも交易に来るからと約束して、また沢山の交易品をつんで帰って来ました。それからまた子供たちに儀式のやり方などを教えて暮らし、何年かすると、どこからか神のように美しい娘がふたりやってきて、息子たちとそれぞれ結婚しました。一組は私たちと同居し、もう一組は近くに家を建てて住んで、それぞれ何不自由なく暮らしています。私はもう年老いて死んでいくのですが、息子たちには神をうやまって暮らしていると神は必ず目をかけて幸せを授けてくれるものなのだよ言い聞かせて死んでいきますと、あるアイヌの旦那さんが物語りました。



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