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6. パイェカカムイ(天然痘の神)の子孫が投げた切羽

話 者:織田ステノ
資料番号:30010
収録日:1980年2月23日
「私」:ある村の男の子
翻 訳:高橋靖以
サンプル音声

<あらすじ>

 おじいさんが私を育てていた。どうして育ったものであるのか、私はわからないで、おじいさんがクマでもシカでもとって何の心配もせずに暮していた。私が少し成長すると、薪とりに行こうと思っても、私は気が進まず、おじいさんが薪とりや水汲みをしていた。

 ある日おじいさんが薪とりに外にでた後で、私は起き上がって家の宝物壇をかき回し、一番下の箱をとりだしてほどくと、中に金の切羽が一枚あった。私はそれをふところに入れ外に出て、東の方向へ進んで切羽を振り回した。するとその切羽は飛んでいって、イアルモイサの村のところで落ちるのが見えた。その後でどうしてこのようなことをしたのかと思い、家に入って宝物壇をもとのようにした。

 二年か三年後、聞くところによると、イアルモイサの村長の一人娘が急に床についてものも食べず、父母があわてて薬をあたえようとしても嫌がって寝ており、二年や三年たっても死なずにいる。きっと夫にしたい人がいるのだろうと年配の人は言い、村の若いニパたちが食事を差し出しても見向きもせず、どうしようもないという噂を聞いていた。

 私はひどく腹をたてながらいたが、おじいさんは「その噂があるところへ決して行くな」と言った。しかしある日に私はその村へ行ってみたくなり、起き上がって垢のついた着物を着て、その切羽が飛んで行った方向を目指して出かけた。そしてイアルモイサの村へ着いた。

 村の真中に大きな家があってそこへ行くと、男性も女性もたくさんの人がいた。人々は「どこから来た者か、垢のついた着物を着て、汚い」と言ったが気にせずに中に入った。その家のおじさんとおばさんは「垢まみれでも神の意思で来た者だからそのように言ってはならない」と言い、私は中に入って婦人たちから御膳を受け取り、寝床の戸を開けた。すると神のような娘がいて、笑いながら私の方を向いた。御膳を傍らに置くと食事をして、頭を上げて笑いながらいた。私は「汚い姿を笑っているのか」と腹を立てながら御膳を下げた。

 婦人たちは「この若者のおかげで村の村長の娘が回復した」と言っていると、その娘は笑いながら火のそばへ来て両親の間に座った。娘はふところから何かを取り出したが、それは私が振り回して飛んでいった切羽だった。「どうしてこの女性が切羽を取り出したのか」と聞くと、村の村長は次のような話をした。「言うのも恥ずかしいが、神の思慮で、私の娘が便所に行って座ったときに股間に切羽がくっついた。そのことを父母に言うのも恥ずかしいので床についてしまった。ニパたちは「夫をもちたいのだろう」と言って、私は若者たちを選んだ。その若者たちが集まって代わる代わる食事を出しても見向きしなかったが、この若者が寝床の戸を開けたときに切羽が外れて落ちた。それでこの若者が差し入れたものを食べて、外に出て来てこのように話したのだ。」

 人々は驚き、私はひどく腹が立った。もう晩になったので私は食事を出されて神窓の下の寝床で横になったところ、まさか眠ろうとは思わなかったのに、神のようなニパがすだれを持ち上げてこう話した。「この村の村長にも夢で知らせるから、私の言うとおりにしなさい。おまえはただの人間の子孫ではない。パイェカカムイの末裔でこの娘も神の末裔だ。おまえがよい暮らしをしているとよくないと思ったので、貧しい人の子供にした。この娘と一緒になるようにと考えて、わざと切羽を投げさせた。切羽がこの娘の股間にくっつき、神の意思でおまえはこの村に来たのだ。明日切羽を持って家に戻り、もとのように置けばこの娘は荷物をもっておまえのところへやって来るだろう。一緒になってよい暮らしをしなさい。おまえが山に行っても何でもできるようにしてやる。おぼえておきなさい。」

 私はひどく腹を立てながら起きた。村長は起きて食事をし、外に出る前に「若者よ、神の思慮であなたが切羽を投げたことを聞いた。これを返します」と言った。私は切羽をふところに入れて、家に戻った。箱に切羽をもどして様子をみていると、おじいさんが戻ってきて「昨日はどこに行ったのか」とたずねた。事情を話すとおじいさんは非常に驚いた。そして「私はもう年老いたが、おまえは働きもしない。水汲みもしないので、娘がやって来るのなら男性の仕事を覚えなさい」と言った。翌日おじいさんが寝ているときに私は起きて炊事をし、おじいさんを起こして食事をした。それから山に行って大きなクマをとると、おじいさんはよろこんだ。二、三日たつと娘が人々とともにやって来た。人々は一晩泊まって帰っていった。その後でおじいさんは「死ぬ前に酒をつくって神に感謝したい」と言った。私の奥さんは酒をつくり、私は外に出てイナウにする木を切った。おじさんはイナウをけずり、イアルモイサの舅たちを招いて神への祈りをおこなった。翌日人々が戻ると、おじいさんは床についた。おじいさんの世話を奥さんにたのみ、私は山に行って狩りや薪とりをした。おじいさんは安心したのか、食事もせず、水も飲まなくなり、亡くなった。私はおじいさんのことを思い泣きながらいたが、それから男の子女の子に恵まれた。「おまえたちの母の股間に切羽がくっついたが、私がかけつけると切羽が外れて落ちた。それで一緒になって、おまえたちがいるのだぞ。何か神の思慮があるならば、よく考えるのだぞ」と子供たちに言い聞かせた。おじいさんのことを惜しみながらいて、年老いたので、話すのですとある若者が語った。



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