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物語や歌

C028. 交易に行って針ばかり持ち帰ったモイサムの男の話

あらすじ

 

 私には父と母がいて、一緒に暮らしている男の子でした。大きくなってから父と一緒に山猟にいくと、父が狩りの仕方を教えてくれました。母の薪採りも手伝いながら暮らしていましたが、シカの毛皮、クマの毛皮の交易品がたくさんたまったので、父がこういいました。「ここまでおまえは大きくなったのだからこの毛皮を背負って和人の村へいって、何かと交換して来なさい」
 そこで交易にいく準備をして、たくさん舟の中に毛皮を入れて、父がいう通りに交易に、舟に乗って川を下っていきました。このように行くのだと父が私に教えてくれていたので、その通りに何日か泊まりながら進んでいくと、和人の村につきました。和人たちに「シカの交易品を背負って来たのですよ」と告げると、喜んで殿様の屋敷に毛皮を背負っていき、その代わりに何ということか、針ばかりの大きな荷物と、ほんの少しのたばこと酒樽と交換してくれたのでした。
 私の家に帰って来て、針の荷物を出して、父に「このようなわけで、たくさんの針と交換して来たのですよ」といったところ、父はびっくりして鼻や口を押さえて「本当に驚いた。おかしなことだ、おまえが持って来た針をどうしようというのだ? おまえが欲しくて背負って来たのだから、どこかへ背負っていくがいい」と、私に対してひどく怒りました。
 仕方がないので針の荷物を持って家を出て、野宿をしながら進んでいくと、見知らぬ村につきました。川を遡って、両側に家のある様子を見ながら進んでいくと、村の中央に大きな村長の家がありました。若い男性も住んでいるようだけれど、山猟にいっていて留守のようでした。家の外で咳払いをすると、何とも美しい若い女性が出て来て、私を遠慮がちに見ると家に入ってしまいました。ござを敷く音がして、家の長老の「お入れしなさい」という声が聞こえたので、荷物を置いて、静かにかしこまって家に入りました。座の中央にござが敷いてあったのでそこに進んで座り、何度も拝礼をしました。長老は私を見て拝礼をしながら「本当に久しぶりに、アイヌの若い男性がやって来た」といいました。そこで私が「ここに村がある様子を見たので、家に入って来たのですよ」といったところ「それならばゆっくりお休みください」ということでした。
 若い女性が食事の準備をしていると、若い男たちが山猟から帰って来る音が聞こえました。外で装束を解いて入って来たのを見ると、なんとまあ男たちも見栄えがよい人たちで、かしこまって入って来て神座に座って、私を見て拝礼しました。そこで私は「このようなわけで迷ったのでやって来たのです。何も悪い心で、いたずら心を持ってやって来たのではないのですよ」といいつつ拝礼をし、一緒に食事をしました。すると長老はどうしたものか、火にくべてある燃えさしを突いたりかきまわしたりしていました。何かをいいたいことがあるのか、ずっとそうしていて、やがて口を開いていうのはこのようなことでした。
 「これ若者よ、私のいうことをよく聞いてください。私の村は川の向こう側にもたくさんの同族が住んでいるのです。私の村ではたった一本の針を向こうの村から借りて針仕事をしてたのです。仕事が終わるとその針を向こうの村に返すというふうにお互いに融通しあって暮らしていたのですが、ある時私の村で針を紛失してしまい、どんなに探しても出てこないのです。その咎で、古いきまりごとで、向こうの村では私をもう斬り殺す、戦いをおこして私の村を滅ぼしてしまうという要求をつきつけて来て、どんなに謝って駄目でした。もう明日には向こうの村の住人たちが戦を仕掛けに押し寄せて来るかも知れないので、旦那さんはお逃げなさい。私の村人たちは殺されてしまっても、仕方がないことに針をなくしてしまったのだから、どうしようもないのです。だから気にせず、若者よ、食事をしてお腹がいっぱいになったのならお逃げなさい」と、その長老が私に話をしたので、私はこういいました。
 「隣の川筋の人間が私であって、父と一緒に山猟に行きつつ暮らしていたのだけれど、交易にいって来なさいというので、シカの毛皮クマの毛皮の交易品を持って交易にいったのですよ。すると何ということか、小さい酒樽ひとつ、少しのたばこと交換して、後は全部針と交換することになってしまったのですよ。父は私に腹を立て『おまえが背負って来たのだから、どこかに背負っていけばいい』と私を罵倒するので、その針の大きな荷物を背負ってやって来たのです。長老よ、この針をさしあげましょう。そして向こう側の村に住む村長や奥さんがたにこの針を渡せばいいでしょう」と、大きな針の荷物を長老に差し出すと、何度も拝礼をして「本当に驚いた、まさか針のために、村人と一緒に死んでも斬られても仕方がないと思いつつ暮らしていたのだが、どこからかやって来た若い旦那さんのおかげで、今は生きて、無事に村人と共にあることができるというのか」といって私に感謝し、何度も私に拝礼をして、その針を子どもたちに与えました。子どもたちはその針を向こうの村に持っていって村長に渡したところ、向こうの住人たちは何度も拝礼して「よそから来た若い旦那さんのおかげで、これからは互いにうらやましがることもなく暮らせることでしょう」といって喜んだということでした。
 そのままその村に留まっていると、村長の若く美しい娘を嫁にくれるということになりました。そこで土産の荷物をたくさん背負わせてもらって、私の生まれた村に帰って来ました。父に訳を話すと、何度も拝礼をして喜んでくれました。それからは父たちのところを訪ねたりしつつ妻と暮らしているうちに、父も母も老衰で亡くなってしまいました。
 昔、交易にいったところ、針をたくさんもらって来て父に叱られたけれど、針のない村に神のはからいで出向いていって、とても感謝され、奥さんももらって子宝にも恵まれて幸せな暮らしをして死んで行きます、という昔話。

 

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