アイヌ民族博物館
 
 

トップアイヌ文化入門 イヨマンテVI.祖霊祭—シンヌラッパVI-4.対訳—シンヌラッパの前のカムイノミ—

  巻頭
I
イオマンテの準備

II
酒漉し

III
家に祀る神の着物替え

IV
前夜祭

V
本祭り

VI
祖霊祭

1
祖先に対する届けものの用意

2
祭場の設置

3
火の神への祈り

4
対訳

5
祖先に食べ物の献上
表3イヨマンテの主たるながれ

VII

終わりに
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VI-4.対訳—シンヌラッパの前のカムイノミ—(注1)

イレス カムイ
i=resu kamuy
育ての神
ウ パセ カムイ
u pase kamuy
重い神よ
タパン ペ ネノ
tapan pe neno
このように
ヌマン オロ ワノ
numan oro wano
昨日から
アキ イノミ
a=ki inomi
行っている祈り
ウ ネ パ コ
u ne pa korka
ですが
クヨヤナカネ
kuyoyanakane
残された人間として(注2)
ヌマン オロ ワノ
numan oro wano
昨日から
シンリッ イノミ
sinrit inomi
祖先への祈り
エカシ イノミ
ekasi inomi
祖父への祈りを
アキ  ネ ア コ
a=ki p ne a korka
していたのですが(注3)
ネ ヒ アナ
ne hi anakne
それは
タン ト アナ
tan to anakne
今日は
シンリッ イノミ
sinrit inomi
祖先への祈り
エカシ イノミ
ekasi inomi
祖父への祈り
フチ イノミ
huci inomi
祖母への祈り
パ トゥラノ
nispa turano
立派な方々とともに
マタイヌ トゥラ
mataynu tura
女とともに
タネ オロ ワノ
tane oro wano
これから
アキ  ネ キ ナ
a=ki p ne ki na
いたしますから
ウ ネ ネ ヤッカ
u nep ne yakka
何事も
ウ ピカ ノ ポ
u pirka no po
無事に
シンリッ ウタリ
sinrit utari
先祖の人たち
エカシ ウタリ
ekasi utari
祖父たち
フチ ウタリ
huci utari
祖母たちの
ウ テサマ タ
u teksama ta
そばへ
ウ コッチャケ タ
u kotcake ta
前へ
シレパ クニ
sirepa kuni
届くように
イレス カムイ
i=resu kamuy
育ての神
ウ パセ カムイ
u pase kamuy
重い神が
ウ ピカ ノ
u pirka no
よく
ウコサンニヨ
ukosanniyo
相談して
アキ パ キ ワ
a=ki pa ki wa
下さって
ウ ネン ポカイキ
u nen pokayki
なんとか
シンリッ オッタ
sinrit or ta
先祖のもとへ
エカシ オッタ
ekasi or ta
祖父のもとへ
フチ オッタ
huci or ta
祖母のもとへ
ハル ネ ヤッカ
haru ne yakka
食べ物でも
トノト ネ ヤッカ
tonoto ne yakka
酒でも
シレパ クニ
sirepa kuni
届くように
カムイ オロ ワノ
kamuy oro wano
神から
ウコサンニヨ
ukosanniyo
お互い相談して
アキ パ クニ
a=ki pa kuni
下さるように
オリパ トゥラ
oripak tura
畏れながら
クネ  ネ コ
ku=ne p ne korka
ですが
カムイ オッタ
kamuy or ta
神に
クイェ パ キ ナ
ku=ye pa ki na
私は申し上げます。
ウ ネ  ネ クス
u ne p ne kusu
それで
ウ ネ ネ ヤッカ
u nep ne yakka
何も
アイヌ アナ
aynu anakne
人間というものは
エランペウテ ペ
erampewtek pe
解らないもの
ウ ネ  ネ クス
u ne p ne kusu
なので
カムイ オッタ
kamuy or ta
神に
クイタ キ ナ
ku=itak ki na
私は申し上げるのです。
(以下「節]なし)
ネ ヒ アナ
ne hi anakne
それは
カムイ ウタリ
kamuy utari
神々が
カ アヌ
pirka a=nu
よく聞いて
アキ パ キ ワ
a=ki pa ki wa
下さって
タネ オロ ワノ
tane oro wano
これから
シンリッ イノミ
sinrit inomi
先祖の祈り
エカシ イノミ
ekasi inomi
祖父の祈り
フチ イノミ
huci inomi
祖母の祈りを
パ トゥラ
nispa tura
立派な方々とともに
マタイヌ ウタ
mataynu utar
女たちが
ウ キ パ クス
u ki pa kusu
致しますので
カ ノ ポ
pirka no po
無事に
 ネ ヤッカ
nep ne yakka
何でも
シレパ クニ
sirepa kuni
届くように
カムイ ウタリ
kamuy utari
神々が
カ ノ
pirka no
よく
エプンキネ ヤ ピカ ナ
epunkine yak pirka na
守ってください。(注4)

(注5)(注6)


(注1)sinnurappa シンヌラッパ(先祖供養)

よその土地に行って先祖供養をするときには、その土地(この場合は白老)の先祖を供養するのであって、自分の先祖(屈斜路など)の供養は自分の土地でするものだそうである。年や季節の変り目(春・秋)ごとにkotan nomi コタン ノミ「村の・祈り」を、poro cise un kur ポロ チセ ウン ク「大きな・家に・住む・人=村長」の家で、村人がいろいろ持ち寄って行なうということである。

(注2)kuyoyanakane クヨヤナカネ

前後から判断してこのように訳しておく。II−2の注3参照。

(注3)昨日から祖先へのお祈りをしていた

本当はカムイノミのあとに続けて先祖供養もするべきなので、ここで昨日からの続きであることを神に断っているのだということである。

(注4)epunkine yak pirka na エプンキネ ヤ ピカ ナ

 実際の録音はepunkine pirkakarna エプンキネ ピカカナのようにも聞こえる。

(注5)

 正式の手順としては以上で充分だということであるが、このあと日川翁は帰りぎわにape huci アペフチに簡単に祈りを捧げている。残念ながらその録音はとっていない。

(注6)日川翁のカムイノミの人称について

 カムイノミにおける人称の用い方は、従来から問題点の1つであった。日川翁のカムイノミにおいても、さまざまな人称が複雑に用いられている。ここでその用法について、気がついた点を簡単に整理しておく。
 まず、カムイノミを行なっている翁自身については、1人称単数kuクが用いられる場合と、4人称(不定人称)aア(anアン)が用いられる場合と、1人称複数ciチが用いられる場合とがある。その中では大体、1人称単数は翁の個人的な動作(カムイノミを唱える、白老に来る、年寄りであるなど)を示す場合に使われ、4人称や1人称複数は、自分を含むその場の人全体を指すときに用いられるようである。なお1人称複数が用いられるのは、下にあげる「神々を指す4人称」との混乱を避ける場合かとも考えられる。
 また、翁以外のイヨマンテに参加している人々(nispa utar ニパ ウタ「立派な人々」、pewre kur utar ペウレ ク ウタ「若い人たち」、mataynu utar マタイヌ ウタ「女たち」など)を指す場合には、3人称(無表示)が用いられている。
 火の神、家の神ほかの神々に呼びかけるのには、大体4人称が用いられる。これはいわゆる「2人称敬称」であると考えられる。ただし、直接そうした神々に対してではなく、送られた熊に対して呼びかけるカムイノミを行っているときでも、第3者である神々の行為について4人称を使っている場合(V-9)がある。これは一般の4人称の用法とは異なっており、カムイノミにおける人称の問題を考える上でも注目される。
 いっぽう送られる熊に呼びかける場合(V-9、V-19)には、2人称単数e エによるときと、4人称によるときとがあるが、いずれのカムイノミでも、最初は2人称単数を用い、途中から4人称に切り換わっている。この理由はよくわからないが、2人称単数の場合は熊をただの動物としてみているのに対し、4人称の場合はすでに神として待遇している、として説明できるかもしれない。

本書および翌1990年に実施されたイヨマンテの実施報告書は、復刻合本として再刊されており、通信販売も可能です。

伝承事業報告書2〈イヨマンテ-日川善次郎翁の伝承による-〉

  • 2002.11.30発行
  • B5版294ページ
  • 定価 2,625円

 

 


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