VI-4.対訳—シンヌラッパの前のカムイノミ—(注1)
イレス カムイ
i=resu kamuy |
育ての神 |
ウ パセ カムイ
u pase kamuy |
重い神よ |
タパン ペ ネノ
tapan pe neno |
このように |
ヌマン オロ ワノ
numan oro wano |
昨日から |
アキ イノミ
a=ki inomi |
行っている祈り |
ウ ネ パ コロカ
u ne pa korka |
ですが |
クヨヤナカネ
kuyoyanakane |
残された人間として(注2) |
ヌマン オロ ワノ
numan oro wano |
昨日から |
シンリッ イノミ
sinrit inomi |
祖先への祈り |
エカシ イノミ
ekasi inomi |
祖父への祈りを |
アキ プ ネ ア コロカ
a=ki p ne a korka |
していたのですが(注3) |
ネ ヒ アナクネ
ne hi anakne |
それは |
タン ト アナクネ
tan to anakne |
今日は |
シンリッ イノミ
sinrit inomi |
祖先への祈り |
エカシ イノミ
ekasi inomi |
祖父への祈り |
フチ イノミ
huci inomi |
祖母への祈り |
ニシパ トゥラノ
nispa turano |
立派な方々とともに |
マタイヌ トゥラ
mataynu tura |
女とともに |
タネ オロ ワノ
tane oro wano |
これから |
アキ プ ネ キ ナ
a=ki p ne ki na |
いたしますから |
ウ ネプ ネ ヤッカ
u nep ne yakka |
何事も |
ウ ピリカ ノ ポ
u pirka no po |
無事に |
シンリッ ウタリ
sinrit utari |
先祖の人たち |
エカシ ウタリ
ekasi utari |
祖父たち |
フチ ウタリ
huci utari |
祖母たちの |
ウ テクサマ タ
u teksama ta |
そばへ |
ウ コッチャケ タ
u kotcake ta |
前へ |
シレパ クニ
sirepa kuni |
届くように |
イレス カムイ
i=resu kamuy |
育ての神 |
ウ パセ カムイ
u pase kamuy |
重い神が |
ウ ピリカ ノ
u pirka no |
よく |
ウコサンニヨ
ukosanniyo |
相談して |
アキ パ キ ワ
a=ki pa ki wa |
下さって |
ウ ネン ポカイキ
u nen pokayki |
なんとか |
シンリッ オッタ
sinrit or ta |
先祖のもとへ |
エカシ オッタ
ekasi or ta |
祖父のもとへ |
フチ オッタ
huci or ta |
祖母のもとへ |
ハル ネ ヤッカ
haru ne yakka |
食べ物でも |
トノト ネ ヤッカ
tonoto ne yakka |
酒でも |
シレパ クニ
sirepa kuni |
届くように |
カムイ オロ ワノ
kamuy oro wano |
神から |
ウコサンニヨ
ukosanniyo |
お互い相談して |
アキ パ クニ
a=ki pa kuni |
下さるように |
オリパク トゥラ
oripak tura |
畏れながら |
クネ プ ネ コロカ
ku=ne p ne korka |
ですが |
カムイ オッタ
kamuy or ta |
神に |
クイェ パ キ ナ
ku=ye pa ki na |
私は申し上げます。 |
ウ ネ プ ネ クス
u ne p ne kusu |
それで |
ウ ネプ ネ ヤッカ
u nep ne yakka |
何も |
アイヌ アナクネ
aynu anakne |
人間というものは |
エランペウテク ペ
erampewtek pe |
解らないもの |
ウ ネ プ ネ クス
u ne p ne kusu |
なので |
カムイ オッタ
kamuy or ta |
神に |
クイタク キ ナ
ku=itak ki na |
私は申し上げるのです。 |
(以下「節]なし) |
|
ネ ヒ アナクネ
ne hi anakne |
それは |
カムイ ウタリ
kamuy utari |
神々が |
ピリカ アヌ
pirka a=nu |
よく聞いて |
アキ パ キ ワ
a=ki pa ki wa |
下さって |
タネ オロ ワノ
tane oro wano |
これから |
シンリッ イノミ
sinrit inomi |
先祖の祈り |
エカシ イノミ
ekasi inomi |
祖父の祈り |
フチ イノミ
huci inomi |
祖母の祈りを |
ニシパ トゥラ
nispa tura |
立派な方々とともに |
マタイヌ ウタラ
mataynu utar |
女たちが |
ウ キ パ クス
u ki pa kusu |
致しますので |
ピリカ ノ ポ
pirka no po |
無事に |
ネプ ネ ヤッカ
nep ne yakka |
何でも |
シレパ クニ
sirepa kuni |
届くように |
カムイ ウタリ
kamuy utari |
神々が |
ピリカ ノ
pirka no |
よく |
エプンキネ ヤク ピリカ ナ
epunkine yak pirka na |
守ってください。(注4) |
|
(注5)(注6) |
(注1)sinnurappa シンヌラッパ(先祖供養)
よその土地に行って先祖供養をするときには、その土地(この場合は白老)の先祖を供養するのであって、自分の先祖(屈斜路など)の供養は自分の土地でするものだそうである。年や季節の変り目(春・秋)ごとにkotan
nomi コタン ノミ「村の・祈り」を、poro cise un kur ポロ チセ ウン クル「大きな・家に・住む・人=村長」の家で、村人がいろいろ持ち寄って行なうということである。
(注2)kuyoyanakane クヨヤナカネ
前後から判断してこのように訳しておく。II−2の注3参照。
(注3)昨日から祖先へのお祈りをしていた
本当はカムイノミのあとに続けて先祖供養もするべきなので、ここで昨日からの続きであることを神に断っているのだということである。
(注4)epunkine yak pirka na エプンキネ ヤク ピリカ ナ
実際の録音はepunkine pirkakarna エプンキネ ピリカカラナのようにも聞こえる。
(注5)
正式の手順としては以上で充分だということであるが、このあと日川翁は帰りぎわにape huci アペフチに簡単に祈りを捧げている。残念ながらその録音はとっていない。
(注6)日川翁のカムイノミの人称について
カムイノミにおける人称の用い方は、従来から問題点の1つであった。日川翁のカムイノミにおいても、さまざまな人称が複雑に用いられている。ここでその用法について、気がついた点を簡単に整理しておく。
まず、カムイノミを行なっている翁自身については、1人称単数kuクが用いられる場合と、4人称(不定人称)aア(anアン)が用いられる場合と、1人称複数ciチが用いられる場合とがある。その中では大体、1人称単数は翁の個人的な動作(カムイノミを唱える、白老に来る、年寄りであるなど)を示す場合に使われ、4人称や1人称複数は、自分を含むその場の人全体を指すときに用いられるようである。なお1人称複数が用いられるのは、下にあげる「神々を指す4人称」との混乱を避ける場合かとも考えられる。
また、翁以外のイヨマンテに参加している人々(nispa utar ニシパ ウタラ「立派な人々」、pewre kur utar ペウレ クル ウタラ「若い人たち」、mataynu utar マタイヌ ウタラ「女たち」など)を指す場合には、3人称(無表示)が用いられている。
火の神、家の神ほかの神々に呼びかけるのには、大体4人称が用いられる。これはいわゆる「2人称敬称」であると考えられる。ただし、直接そうした神々に対してではなく、送られた熊に対して呼びかけるカムイノミを行っているときでも、第3者である神々の行為について4人称を使っている場合(V-9)がある。これは一般の4人称の用法とは異なっており、カムイノミにおける人称の問題を考える上でも注目される。
いっぽう送られる熊に呼びかける場合(V-9、V-19)には、2人称単数e エによるときと、4人称によるときとがあるが、いずれのカムイノミでも、最初は2人称単数を用い、途中から4人称に切り換わっている。この理由はよくわからないが、2人称単数の場合は熊をただの動物としてみているのに対し、4人称の場合はすでに神として待遇している、として説明できるかもしれない。 |