花ゴザ2枚を上座に横に敷き、その中央に化粧を施した神をオッチケの上に載せておく。神の前後左右に様々な供物が置かれる。それを前から順に記してみると次のようになる。まず、前列には左から(向かってみて)1)イナキビの丸餅と米の丸餅が入ったパッチ。2)豆入りのイナキビご飯をいっぱいに盛り上げたお椀(マラプトトゥキ・marapto tuki=クマ神の杯、この杯をお椀として使用)と酒が入れられたマラプトトゥキを載せたオッチケ。ご飯にはカムイイペパスイが刺して立てられ、マラプトトゥキの上にはキケウシパスイが載せられる。3)プクサご飯、ヒエご飯、カボチャのラタシケプ、シケレペラタシケプ、これらをそれぞれイタンキに載せたオッチケ。4)切り餅を積み重ねたオッチケ(これを静内町の織田媼は「アンチャシト」といっている)。
中列は、左から1)乾燥品を煮上げたスケトウダラ。2)着飾られた熊神すなわちマラプト。3)果物を盛り上げたオッチケ。4)シケレペキナのラタシケプを入れたパッチ。後列は左から1)お菓子を盛り上げたオッチケ。2)イナウルを敷き、それに頬の肉と目玉を載せたオッチケ。3)細く切ったサッチェプとクルミを載せたオッチケ。以上がところ狭しと並べられる。これらの中で、カムイイペパスイ、キケウシパスイは、この後、神が安置される二叉の木すなわちユクサパオニに結びつけられてヌサに収められる。
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| 99 上座に安置された熊神と供物 |
このようにして上座にすべてを置き終えたところで神への祈りがまた開始される。男たちがまた炉辺から上座にかけてずらりと向かい合って座る。女たちも全員座る。古老の一人(葛野翁)がオンカミした後イタンキに入れた肉(頭の解体の際、火の神に捧げるために頬の両側から3切れずつ取って入れた肉)を火の神に捧げる。熊神からいただいた上等の肉をまず火の神に捧げるのである。もう一人の古老がマラプトトゥキとキケウシパスイを持って化粧した神に酒を捧げ、さらにカムイイペパスイでこの日のためにこしらえたご飯類を少しずつ摘んで火の神に捧げる。キケウシパスィやトゥキ、さらにはカムイイペパスイもそれが終わったら元の置かれてある場所に置く。
トゥキとイクパスイが日川翁と向かいに座っている古老(浜弥一朗専務理事)の二人に渡されイヨマレクルによって酒が注がれる。日川翁はそれを火の神に捧げる。もう一人の古老は上座の熊神に捧げる。そこで、日川翁の祈りがまたはじまる。「育ての神、重々しい神よ!この豊かな白老の村で育てられた熊が神々の計らいで神の親元、神の国に行って今日から新しい神として再生します。そこに行くときにはよくよく見守って下さり、食べ物でも料理でも何でもたくさん持って無事に行けますよう、重々しい神が神々に相談しておいて下さい。ちゃんとわき目もふらずまっすぐに行けるよう重々しい神に、私はお願いをこのパスイに託して申し上げるのです。」ということを独特の節をつけながら述べるのである。(V-19を参照)。
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| 98 飾られた熊神を安置しての祈り |
その祈りがはじまったのとほぼ同時に、座っている男たちは戸口から出てロルンプヤラの外に行く。一人ずつロルンプヤラ越しにトゥキとイクパスイを受け取り、酒を注いでもらってヌサに行き、この日の朝に立てたそれぞれのイナウに一人一神ずつ酒を捧げる。酒を捧げながら、それぞれがそれぞれの対象の神の名を呼び、「あなた様をはじめ神々の計らいで今日無事に育てた神が休まれ、新しい神となって神の親元に行くことになりました。どうか神の国にしっかりと行けますよう、あなた様も見守って下さり、この酒を受け取って下さい」という意味の言葉を発する。アイヌ語で言える者はそれでいえばよいが、できぬ者は日本語でもよいという。神はそれでもきちんと聞いてくれるのだという。葛野翁はヌサの前の別火に酒を捧げ、東・南・西の三方にも酒を捧げている。トゥキを用いて酒を捧げた者たちはそれぞれロルンプヤラからトウキとイクパスイを返す。そうして外に出ていた者が全員家の中に入り着座する。
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| 100 神窓から酒杯をだす |
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| 101 ヌサの諸神に酒を捧げる |
ここで再び日川翁と他の男たち全員にトゥキとイクパスイが渡され、イヨマレクルによって古老たちから順次全員に酒が注がれる。注ぎ終えたら全員トゥキを持ってオンカミし、日川翁がここでもまた火の神に祈りを捧げる。これは火の神に対し、熊神が無事に神となって神の国へ行くことができることになったことを感謝する祈りである。その内容は「火の神よ!このように立派な方々と行なった祈りが無事に終わったことを神に感謝申し上げます。これからも何をするにでも見守って下さるようにお願いします。明日は帰る前に先祖供養を行ないます。無事に終わるよう重々しい神よ、ようく見守って下さい。」という意味のものである(詳細は、V-9「25日・最後のカムイノミ」を参照)。
終わったあと、日川翁が火の神と炉縁のチェホロカケプに酒を捧げる。他の古老たちや男たちも上座に安置された神に向かって酒を捧げる。それが終わると全員がイヤイライケレーという感謝の言葉を発してこの祈りを終える。男たちのトゥキは女たちに次々と渡されていく。