V-17.頭部の解体と化粧・飾りつけ
祈りの後、しばらく雑談・歓談の時間をとる。もちろん、このときは飲食は自由にとられる。およそ30分ほど経過した後、頭部の解体の儀式に入る。それに先だって、上座に置いた肉・骨などの入れ物をロルンプヤラ側の北壁や南壁際に下げる。ロルンプヤラの下はものを置かずあけておく。
毛皮と頭部を離し、毛皮はたたまれたままロルンプヤラの下に持って行く。頭部を脚のない朱色のオッチケに載せ上座の中央に置き、傍らに何も入っていないパッチを置く。このとき、熊神の顔はもちろん炉の方を向かせる。熊神、パッチ、オッチケは花ゴザの上に置かれ、解体作業はこの上で行われる。ここで、男たちによって頭部が解体され、新しい脳、目、舌が挿入されて新しい着物に着せ替えられるのである。この作業を行なう男たちは晴着すなわち正装したままの姿である。この作業を行なう者は若い男でも構わないといい、日川翁は若い者たちがこれを行なうとかえって神が喜ぶものだ、という。
まず、最初に目玉がくり抜かれる。目のまわりをマキリでぐるりとえぐり取る。くり抜いた目は脚のついていない朱色のオッチケの上に敷いたイナウルの上に置かれる。続いて、額や頭頂部、頬についている肉や脂肪を剥ぎ取っていく。これらを傍らに置いたパッチに入れる。口の周辺の肉も同じようにして取る。骨に肉片を残さぬよう、なるべくきれいに取る。頭部の内側(あごの下側や首の付け根あたり)の肉も取る。
こうして、頭部の肉をきれいに取ったら、次に鼻のまわりをえぐり取る。それが済むと脳を取り出す。脳を出す際は、頭骨の左側面(頭骨に向かってみれば右側)の上にナタの背の先で5~6cmほどの径の穴をあけ、木の箆でこじあけ骨片を払い落としながら中に木箆を入れて脳を出す。この箆を日川翁はカムイポンペラ(kamuy pon pera・神の小さな箆)と呼び、これが数本あらかじめ用意されている。脳をノイペ(noype)という。箆を使ったり指で引っ張り出すようにして取り出してこれをパッチに入れる。取り出し終えたら、ここにイナウルを丸めて詰め込む。頭骨内にびっしり入るように箆で押し込んで入れる。こうして中にはわずかのスキもないほどびっしりと新しい脳が挿入される。穴をあけたときの骨片を全部拾って中に入れる。日川翁によれば、神の国で再び生き返る際に骨片一つでも欠けていたら完全に蘇生できないのでこれを残さず骨内に入れてやらなければならないという。
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| 91 頭部の解体 |
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| 92 眼球の飾りつけ |
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| 93 脳の取り出し |
鼻の穴にもイナウルをびっしり入れる。さらに目玉の部分にもイナウルを丸めて入れる。口内の舌の部分にもイナウルを細長く丸め、上あごと下あごにかませるように入れる。ただ、この際に必要なことは、舌の筋(舌の裏側中央に細長くついている)をきれいにとってそれをイナウルの中に入れてやることである。これも日川翁によれば、舌の筋というものは食べる際にもしゃべる際にも舌を自由に動かすことのできる源であるから、神の国に行っても自由にそれができるように入れてやるものだというのである。この筋を同翁はパルンペスンチ(parunpe sunci・舌の筋)と昔のエカシたちがいっていたと記憶している。舌の他の部分は参列したニシパやオンネクル(onne kur・お年寄り)に分けて持たす。
これらの作業を終了すると、頭骨をイナウルで飾る。まず、イナウルを数本束にして撚り長さ60~70cmほどのひもを2本作る。1本を頭部に回して頭頂部で縛る。たくさん用意し、イナウルの根元をひもの上から内側に差し入れる。何本もそのように差し入れ、頭の上をイナウルでふさふさになるように覆う。こうして頭の上に飾られたイナウルを白老ではヘペレコソンテ(heper kosonte・仔熊の小袖、この場合のkosonteとは“立派な”という意味)という。ちなみに、昭和7年1月に白老の宮本エカシマトク翁が行なったイヨマンテを観察した河野広道博士の報文「熊の祭」があるので以下に転載してみる。「このようにして熊の頭を飾り、ヘペレコソンテを着せることをアイヌたちは『髪を結ってやる』とか『化粧する』というゆかしい表現で言い表している。エカシたちは『熊の髪』を結ってやりながら、たえず口の中でぶつぶつと何か言っているが、それは、熊の霊をなぐさめたり、ほめたり、祈ったりしているのである。その言葉を訳してみると、『こんなに美しく飾って、こんなにたくさんのみやげ物を持たせて送ってやるのだから、神の国に帰ったなら、お前の両親や友達に俺の所で優しく育てられ、大切な取扱いを受けたということを必ず伝えてくれるように』、『髪を結ったらすばらしい美人になったなぁ』、『お前はおとなしくて可愛い熊だなぁ』、『俺のいうことを忘れないでやってきてくれよ』というようなことを熊に向かって言っているのである。エカシたちが熊の頭の皮を剥ぎ、飾り付けをしている間、媼たちはシントコの蓋をたたいて歌を唄い、ほかのメノコや男たちは熊の周りに輪を作ってリムセを踊り熊の霊をなぐさめる」と報告されている。
頭の上に飾られたイナウルすなわちヘペレコソンテを最後にもう1本の撚ったイナウルのひもで縛って固定させる。
このように脳、鼻、口に人間の手で新しいイナウルが詰め込まれ、そして後述するように性器もイナウルできれいに巻かれ、頭部にも新しい着物が着せられる。熊神はこのような体裁に整えられ人間たちの手で神の国に送られるのである。神の国に行った熊神はそこでグレードが一段と上がった容姿で蘇生するという。日川翁は、これをカムイヤイカラカラ(kamuy yaykarkar・神が自ら着飾る)といっている。この人間の手で飾りつけ・化粧が施された頭骨を、白老では「マラプト・神の客人」と呼んでいる。
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| 94 新しい脳の挿入 |
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| 95 頭部の飾りつけ |
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| 96 頭部の飾りつけ |
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| 97 飾られた熊神(頭骨) |
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本書および翌1990年に実施されたイヨマンテの実施報告書は、復刻合本として再刊されており、通信販売も可能です。
伝承事業報告書2〈イヨマンテ-日川善次郎翁の伝承による-〉
- 2002.11.30発行
- B5版294ページ
- 定価 2,625円
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