V-15.神を迎え入れての祈り(カムイノミ)
こうして一通り上座に解体された熊を入れ終わると、古老をはじめとする男たちが全員炉から上座にかけてズラリと向かい合って着座する。女たちもシソから入口付近にかけて全員並ぶ。外はすでにとっぷりと日が暮れてしまっている。このとき、祈りに先だってイナウの頭部にイトクパ(itokpa・家の印章を入れた刻み)を施した際にでたくずを火の神に捧げ燃やしてしまう。
男たちがオンカミを開始する。男たち全員にトゥキとイクパスイが渡される。上座に置かれたエトゥヌプが載せられた2個のオッチケを2人の女性(イオマレクル)が持って、シソを通りアペケシ(炉の下手)を廻ってイトムンプヤラ下にある酒樽のところに行く。樽からピサクで酒を汲みエトゥヌプへ入れる。
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| 88 火の神に上等の熊肉を捧げる |
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| 89 招き入れられた熊神を前にしての祈り |
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| 90 招き入れられた熊神を前にしての祈り |
これを持って、来た方向を逆にもどり、二人ともシソに廻って男たちのトゥキに酒を注ぐ。必ず、一番先に祭主の日川翁に注ぎ、その後一人は順次上座にかけて座っている男たちに注いでいく。日川翁に注いだイオマレクルのエトゥヌプにはピサクがそのまま載せられ、片手でピサクの柄を押さえながらエトゥヌプで酒を注ぐ。日川翁に注いだイオマレクルは、その後、再びハラキソに廻って日川翁の向いに座っている古老から順次上座にかけて酒を注いでいく。
このときも、日川翁だけがキケウシパスイを用いている。注ぎ終えると、イヨマレクルが「イオマレピリカー!」と言う。それを合図に日川翁を先頭にトゥキを両手で持った男たち全員のオンカミがなされる。ちなみに、このとき日川翁は両手でトゥキのタカイサラ(takaysara・杯の下にセットでつく天目台のこと、日川翁の出身地・沙流川流域ではこれをオウシペ o us pe・尻に―ついている―もの、ともいう)の縁を持ち、火の神に向かって1回、上座に安置された熊神に向かって1回、さらに正面を向き自己の下を向くように1回、というようにオンカミしている。
オンカミの後、日川翁がキケウシパスイに酒をつけて火の神と、炉縁のチェホロカケプの頭と削りかけ部分に酒を捧げる。その間、全員がイクパスイに酒をつけて自らの前方や左右、背後にチッカ(cikka・軽く振り注ぐこと)する。そこで、日川翁の、腹の底からうなるような声で独特の節がつけられた祈りが始まったのである。その祈りを要約すれば、「火の媼神・翁神、重々しい神よ!本日この豊かな白老の村で育てられた熊が無事に休まれ、これから神の国へ行かれますので、このようにみんなで祈りをするのです。今晩は決してうるさいという気持ちをお持ちにならず、人々の言葉をよくお聞きいただき、人間どもをしっかりと見守っていて下さい。人間というものは何も解らないものですが神々はよくご存じのことでしょう。他の神々のもとにわたくしどものこのような意志を申し上げ、相談下さるようお願いいたします。この祈りが無事に終わったならば、“神がいたからこそ”と人間どもは皆んなでいい合い聞き合うことでしょう。私の言葉が足りなくても、神というものは力のあるお方ゆえ、このことをようく咀嚼してお聞き下さることでしょう・・・・・・」という内容である(詳細はV-16.を参照)。
このような祈り言葉を述べたら、火の神やチェホロカケプに再度酒を捧げ、自らもそれをいただきオンカミする。あとは昨日と今日の午前中の祈りと同様に、日川翁をはじめ男たちのトゥキが女たち全員に次々と渡されていく。そうして、これが終わると男たちにトゥキが返され、男たちはトゥキを下に置き、両手でオンカミして(このときも翁は火の神、上座の熊神、自らの下、と三方にオンカミしている)この祈りを終了するのである。
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本書および翌1990年に実施されたイヨマンテの実施報告書は、復刻合本として再刊されており、通信販売も可能です。
伝承事業報告書2〈イヨマンテ-日川善次郎翁の伝承による-〉
- 2002.11.30発行
- B5版294ページ
- 定価 2,625円
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