アイヌ民族博物館
 
 

トップアイヌ文化入門 イヨマンテIV.前夜祭 >IV-2.火の神への祈り(カムイノミ)

  巻頭
I
イオマンテの準備

II
酒漉し

III
家に祀る神の着物替え

IV
前夜祭

1
祈りの準備

2
火の神への祈り

3
対訳

4
饗宴─歌・踊り・語りもの─

V
本祭り

VI
祖霊祭

VII

終わりに
  奥付
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IV-2.火の神への祈り(カムイノミ)

 まず、一人のイオマレク(iomare kur・酒を注ぐ人、女性が行なう)が上座に置いてある酒樽からピサで酒を汲む。汲むときは、樽の向かって右側に立って炉を向くような体をとりながら、ピサの底面で酒の表面を2~3回ほど右まわりに軽く擦るように回してからピサに2杯ほど汲む。それをエトゥヌにあけ移す。これを持って日川翁のところに行き、翁の左側からトゥキの中に酒を3回注ぐ。その間、座っている男たちは手を擦り合わせながら左右に軽く振ってオンカミしている。トゥキは他の座っている男性たちにも渡され、それぞれに酒が注がれる。
 キケウパスイが載せられたトゥキを日川翁は一旦イヌンペ(inumpe・炉縁)に置き、次にパッチに入れられてあるシラリ(sirari・酒粕)をキケウパスイの先で盛り、それをイヌンペサウペ(inumpe sa us pe・炉縁の上手にある台木、すなわち主人の座の前に置かれてある丸太で小刀やナタで細工物をするときに使う台木のこと。『アイヌの足跡』によれば、これを白老では「イヌンペサパウペ」という、とある。サパ・sapa=頭の意味)に立てられたチェホカケとイヌンパストゥイナウの頭(先端部分)、それに削りかけ部分にそれぞれ2~3回ずつつける。炉の火の神にもイクパスイでシラリを2回ほど捧げる。シラリの他、刻みタバコも火の神に2~3回捧げる。
 その後、イヌンペに置いたトゥキを取り、キケウパスイの先に火をつけ火の神に捧げる。他の男性たちもイクパスイ(この際、日川翁のみがキケウパスイを使用、他の男性は普通のイクパスイを用いる)に酒をつけ、それを上座に置かれたイナウやイナウルなどに捧げる。

図4 削りかけ付き酒捧箆(白老・熊坂家のもの)※アイヌ民族博物館所蔵

 

52 前夜の祈り


 その中で、日川翁のおよそ4~5分に及ぶ祈りがはじまる。それを要約すれば、「育ての神、火の媼神、翁神よ!昨日から申し述べて参りましたが、これから明日まで行なう祈りを聞いて下さり、無事に終わるよう私たちを見守って下さい。今や若い者たちだけになってしまっただけに、彼らは何の祈りがそこで終わったともあなたにいわないでしょうが、心の中では神のことを考えております。神は力のあるお方ゆえ、私が申し上げずともすべておわかりでしょう。明日は育てた熊を神の国にお返しいたします。新しい神となって行かれるゆえ、ようくお眠りになって無事に神の国に着けるよう今夜から申し上げるのです。何事もなく無事にことが終えられるよう、他の神々にも相談されてしっかりと見守って下さるように私は申し上げるのです・・・・。」という内容の祈りである(詳細は、IV-3を参照)。
 この祈りの途中、座っている男性の中の浜専務理事がトゥキを持って家の神を祀ってある場所に行き、チセコカムイ他二神に酒を捧げる。葛野辰次郎翁は座ったままで、コタンコカムイ(kotan kor kamuy・村を司る神)の名を呼び、イクパスイで自分の三方に酒を撒きながらその神にも儀式の安全無事を祈る。野本亀雄翁は上座に置かれたチェホカケ1本を持って戸口に行き、入口の横の壁にそれを刺し酒を捧げる。この神がアパサムカムイ(apa sam us kamuy・戸口のそばにいる神)である。日川翁や葛野翁や織田媼はこれをアパサムンカムイ(apa sam un kamuy・同じ意味)という。また、他の上座に座っている二人がオッチケの上に載っているイナウルを持ってチセの中の四隅の壁にそれを刺し、酒を捧げる。日川翁によれば、これはチセコカムイに従位するものだという。ロルンプヤの両端や炉カギ(スワッ・suwat)にもイナウルをつける。

54 家の四隅につけられた削りかけに酒を捧げる

 次に、上座のオッチケに載せているキケチノイェイナウとキケパセイナウ一本ずつ持って、それをカムイプヤから出す。外には若者二人が出てそのイナウを窓越しにオンカミしながら受け取り、すぐにこれをヘペセッ(heper set・仔熊のオリ)の頂上に立てる。井型に組まれたそのオリの奥側の横木に、向かって左側にキケパセイナウ、右側にキケチノイェイナウをひもで縛りつける。こうして2本のイナウをオリにつけたのはすべて日川翁の指導にもとづくやり方である。

53 仔熊飼育オリに木幣を立てる


 これを終えると、上座に置かれたシラリ、イナウル、酒樽、トゥキ、花ゴザが若い男たちによって下げられ片付けられる。その際には、上座側からまっすぐ炉の方向にきて、右膝をついて軽くオンカミしながら、片付けるものを両手に持ち、そのままの体勢であとずさりで4~5歩ほど下がる。そこで必ず左回りに向きを変え、そのまま北壁の下まで持って行きそこに置く。また、ゴザをたたんで持つ際は、ゴザの上手(北側)からまず半分に折り、次に下手(南側)半分を折って中央で合わす。それをさらに左右同時にまん中で折りながら、そのままの状態で左右の端を両手で持ってあとずさりで下がる。ある程度下がったところで、向きを左にくるりと変えてそのまま置く場所に持っていく。それが、当財団で伝承している礼儀作法の一つである。

55 上座に置かれた用具の片付け

 上座をすっかり片付けたら、日川翁が再度トゥキを持ち、キケウパスイで火の神に酒を捧げ、オンカミしながら自らもその酒をいただく。そのトゥキは次々に翁の左側に座っている媼たちに渡される。他の古老たちのトゥキも女性に渡され、媼たちや女性はそれを火の神や炉カギ、あるいはまた炉カギにつけられたイナウルに捧げて自らもいただき、次々とトゥキが他の女性にも回されていく。このように男性から女性に次々とトゥキが渡されていくことが白老でいうパーケである。その間に野本亀雄翁が、アペケ(apekes・炉の下手)側の2本のイヌンパストゥイナウにイクパスイでシラリを捧げ、その後全員座ったまま日川翁を先頭にオンカミしながら「イヤイライケレー」(iyairaykere・感謝の際のことば)という言葉を発する。

 

本書および翌1990年に実施されたイヨマンテの実施報告書は、復刻合本として再刊されており、通信販売も可能です。

伝承事業報告書2〈イヨマンテ-日川善次郎翁の伝承による-〉

  • 2002.11.30発行
  • B5版294ページ
  • 定価 2,625円

 

 


北海道白老郡白老町若草町2丁目3番4号 一般財団法人アイヌ民族博物館

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