II-4.火の神への謝辞(カムイノミ)
酒を漉し終えたら日川翁が火の神に謝辞を捧げる。媼がピサクで漉された新しい酒を汲んでエトゥヌプ(etunup・漆が塗られた片口)に入れる。これを酒を搾った女性一人が炉辺に座っている日川翁のところに持って行き、翁のトゥキに酒を注ぐ。片口でトゥキに酒を注ぐ際は、必ず酒を受ける人の左側から片膝をついて行なう。トゥキに一気に注ぐのではなく、断続的に3回注ぐ。受ける男性は右手でイクパスイを持ってそれを軽く上下に振りながらトゥキに酒を注いでもらう。このときに使用されたイクパスイはイヨマンテのために新調されたキケウシパスイではなく普通の彫刻が施されたものである。
その後、日川翁は酒を炉縁に立てられた木幣(チェホロカケプ)の頭や削りかけ部分に捧げ、続いて炉の中の火の神に捧げる。そして「火の神様、このように女たちが無事に搾り終えたので感謝申し上げます。明日からあさってまでこの大きな家の神の懐の中に大勢の人間が入ります。何をするにもよくよく見守って下さい・・・。」(II-5を参照)という旨の謝辞を述べ、再び火の神に酒を数滴捧げて自らもいただく。
そのトゥキとイクパスイを日川翁の右側(入口側)に座っている織田媼に渡し、媼はそれを受け取ってイクパスイに酒をつけながらスワッ(suwat・炉かぎ)に捧げ、自らもいただく。続いて酒漉しを行なった他の女性たちにもそのトゥキとイクパスイが順番に渡され、スワッや炉の周辺に酒が捧げられ、いただかれる。女性がこのようにスワッに酒を捧げるのは、日川翁によると、ここが煮炊きの一番の元であるゆえ、これを使って料理を行なう女性が年寄り・若い女性を問わず敬いながらここに酒を捧げるものなのだという。女性たちはトゥキに入っている酒を自らいただいた後、必ずイクパスイをトゥキの上に載せ、右手の人差し指で鼻の下を左から右に一回撫でる仕草をする。これを他地方ではエトゥフカラ(etuhu kar・鼻を擦る)というが、白老ではたいていハープ(hap・感謝の言葉、いただきます、とか、ごちそうさま、という意味で発する語である)という。こうして男性が神に捧げて自らもいただいた酒の入ったトゥキとイクパスイを次々と女性たちに渡していくことを、白老ではパーケシ(pakes・酒の飲みさし)という。
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| 44 炉カギに酒を捧げる |
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本書および翌1990年に実施されたイヨマンテの実施報告書は、復刻合本として再刊されており、通信販売も可能です。
伝承事業報告書2〈イヨマンテ-日川善次郎翁の伝承による-〉
- 2002.11.30発行
- B5版294ページ
- 定価 2,625円
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