アイヌ民族博物館
 

  巻頭
I.イオマンテの準備

16
木幣及び関連用具
表2祈りに使用する用具類の製作
1木幣類
2仔熊をつなぐ棒
3削りかけ付き酒捧箆と神の食用箸
4頭骨を収める二叉の木と枕木
5仔熊の着物
6その他

17
熊に持たせるおみやげ類

II
酒漉し

III
家に祀る神の着物替え

IV
前夜祭

V
本祭り

VI
祖霊祭

VII

終わりに
  奥付
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I-16-(1) 木幣類

a.チカイナウ(ただし、日川翁の呼称による)

 後記bのキケチノイェイナウとタイプは同じであるが、先端に2箇所削りかけを施す。この木幣を作るにあたっては、まず12本の長い削りかけを作り、それを一緒にして撚り上げて一本の束にし、その束を12本作る。それらの束をまとめて中央を他の削りかけでゆるく縛っておく。次に先端付近の2箇所に削りかけを施す。先端はノコで切り落とし、切った部分の周りをマキリ(makiri・小刀)で軽く削って角(カド)を落とす。日川翁によれば、この先端付近に施された削りかけは鳥のラ(rap・翼)をあらわすといい、イヨマンテやチセノミ(cise nomi・新築祝い)、コタンノミ(kotan nomi・村の安全祈願祭)の際にはいつもこのイナウを作って祀るという。また、このイナウは常にヌサに向かって右に立てるという。

25 チカイナウ


b.キケチノイェイナウ

キケチノイェイナウ(kikecinoye inaw・削りかけを撚った木幣)は木幣の中でも一番多く用いられ、次の1~4にかかげることに対してこれを用いる。
ヌサの諸々の神々に対して、
ヘペレセッ(heper set・仔熊のオリ)のてっぺんに、
解体した後、熊の頭骨を収める二叉の木の先端に2本縛りつける、
二叉の木に収めた頭骨の左右に添えるタクサイナウ(takusa inaw・タクサの木幣)の先端につける。

26 キケチノイェイナウ


c.キケパセイナウ

 長さ・太さはキケチノイェイナウと同じである。が、キケパセイナウ(kikeparse inaw・削りかけを撚らず削ったままの状態の木幣)はキケチノイェイナウのように撚らず、削ったままの状態にした木幣である。パセ(parse)は例えば炎がモウモウと立ち上がる状態、ものがボウボウとしている状態をあらわす語である。
 この木幣はヌサに祀る神のうちの3神に対して、さらに仔熊飼育オリのてっぺんに立てる木幣2本のうちの1本に用いるために製作した。

27 キケパセイナウ


d.チェホカケイナウ

 チェホカケイナウ(cehorkakep inaw)は最も数多く作られる。白老では単にチェホカケまたはチホカケということが多い。ci=ehorkakep inaw=われわれが逆さに削った・木幣、と直訳されるように、前記の二つの木幣とは反対の方向から削った木幣である。長さは40~50cm位、削りかけを上下2段につける。上段に4箇所、下段に2箇所削りかけをつける。頂上には四隅に尖りをつけ、中央が凹むようにする。
 この木幣はヌサの諸神に対して添えられ(今回は2本ずつ添えた)、また火の神に祈るために家の炉縁に立てられたり、家の入口に刺すためなどに用いられる。

e.ストゥイナウ・ハシイナウ

 ストゥイナウ(sutu inaw・棒の木幣)は皮がついたままの柳の木を1m20cm~30cmに切り、マキリでラ(rap・翼)を3翼3段にわたってつけた木幣である。頭部は斜めに切り、中央は横一文字に若干割れ目を入れる。割れ目にイナウル(inawru・削りかけ)の先を差し込む。
 現在、当財団ではこのイナウをポンヌサ・ポロヌサに12本ずつ立てることを伝承しているが、大正から昭和初期にかける白老アイヌの観察記録『アイヌの足跡』には、この木幣をヌサコカムイ(nusa kor kamuy・ヌサの神、穀物の神とされる。別名ハルプンキオカムイ=haru punkio kamuy 食料を見守る神)、シランパカムイ(siranpa kamuy・樹木の神)、マサラコカムイ(masar kor kamuy・浜辺の神)の三神に対して各4本ずつ添えると記されている。
 ハシイナウ(has inaw・枝のついた木幣)は、ストゥイナウに細い枝がついてある木幣である。長さは大体ストゥイナウと同じで、枝がついている適当な柳の木を切って作る。先端の面、割れ目、削りかけをつける点ではストゥイナウと同じである。ヌサに立てる本数は10本である。

f.タクサイナウ

 送る熊を解体した後、その頭骨を二叉の木に飾り、それをヌサに立てて安置する。この木幣はその頭骨の左右に2本ずつ添えられる。太さ8~10cmほどのキハダ(通称シコロ)の木(アイヌ語名シケペニ・sikerpeni)を用い、皮がついたまま上端の切り口を二つ割りにしてそこにキケチノイェイナウをはさむ。この木とキケチノイェイナウの継ぎ目に笹の葉を一まわり巻き、ひもで縛る。頭骨を収めた二叉の木の左右に2本ずつ計4本添えられるこの木幣は、『アイヌの足跡』によれば、熊が神の元に帰る際の脚となるという。

g.イヌンパストゥイナウ

 イヌンパストゥイナウ(inumpa sutu inaw・それ、すなわち酒をしぼる棒の木幣)の用材はミズキ。長さはチェホカケイナウと同じくらい。皮のついたまま上下2段に2翼ずつラをつける。これを酒漉しの儀式において火の神に対する祈りの際、家の炉縁の四隅に立て、頭やラに酒粕を捧げる。その後は、これを抜いて戸口に祀るアパサムカムイ(apa sam us kamuy・戸口のそばにいる神、この神のためにチェホカケを二本戸口の壁に刺している)と一緒に祀っておく。

h.イナウケマ

 キケチノイェイナウ、キケパセイナウをヌサに立てる際、その脚となる木である。イナウケマ(inaw kema・木幣の脚)は、イヨマンテの際に白老ではたいていキハダの木を用いる。
i.シンヌラッパイナウ(ただし日川翁の呼称による)
 シンヌラッパイナウはイヨマンテの最後に行なうシンヌラッパの際に用いられる。日川翁がこれを製作したが、同翁は皮つきのままのミズキを用いてチェホカケと同じ形態で作った。頭はマキリやナタを使わず、手で折った状態のままにする。

28 シンヌラッパイナウの製作

 

29 製作された各種のイナウとみやげ類

 

本書および翌1990年に実施されたイヨマンテの実施報告書は、復刻合本として再刊されており、通信販売も可能です。

伝承事業報告書2〈イヨマンテ-日川善次郎翁の伝承による-〉

  • 2002.11.30発行
  • B5版294ページ
  • 定価 2,625円

 

 


北海道白老郡白老町若草町2丁目3番4号 一般財団法人アイヌ民族博物館

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