アイヌ民族博物館
 
アイヌの儀礼具
 

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「アイヌの儀礼具~イクパスイ~を中心に~」
期間 2002.7,1〜9.30
場所 博物館特別展示室
ごあいさつ

祈り[イノミ]

火の神への祈り
イクパスイ[捧酒箸]
  • 児玉資料の観察
  • キケウシパスイ[削りかけつき捧酒箸]
  • 「使い古された」キケウシパスイ
  • パスイの使用法に関する古文献
イナウ[木幣]
  • チェホロカケプイナウ[逆さ削りの木幣]
  • キケパラセイナウ[削りかけがパラッとした木幣]
  • キケチノイェイナウ[削りかけを撚った木幣]
  • チセコロイナウ[家神に捧げる木幣]
  • イナウル[削りかけ]
  • ストゥイナウ[棒状の木幣]
  • ハシナウ[枝をもつ木幣]
  • ヘペレアイ[花矢]
漆器・宝物
  • シントコ[行器]
  • エムシ[儀刀]
  • イコロ[宝刀]
  • イカヨプ[矢筒]
  • トゥキ[杯]
  • オッチケ[膳]
  • シネオッチケ[一膳]
  • イタンキ[木椀]
  • エトゥヌプ[片口]・エチウシ[湯桶]
  • オンタル[樽]
  • パッチ[木鉢]
その他
  • サパウンペ[幣冠]
  • チタラペ[ござ]
ホームページ

ごあいさつ

 一般財団法人アイヌ民族博物館は1976(昭和51)年の設立以来、児玉コレクションをはじめとして、亮昌寺コレクション、田中コレクション、宮本コレクション、高橋コレクション、町立白老民俗資料館資料など、約5,500点のアイヌ民具資料を収集し、収蔵してきました。質・量ともに国内有数の資料ではありますが、常設展示できるのはそのごく一部に過ぎず、残念ながら大部分は未公開となっています。
 アイヌ民具の調査研究や製作・複製活動が各地で活発になる中、当博物館ではジャンルごとに期間を区切ることで、それら貴重な未公開資料を一点でも多く見ていただけるようにと本テーマ展を企画しました。

 今回は約450本のイクパスイ[捧酒箸]を中心に儀礼具に光をあてました。ここに一堂に会した儀礼具は、すべてアイヌ[人間]とカムイ[神、自然]との対話を仲立ちする物たちです。この機会に昔のエカシ[長老]たちが一点一点に込めた技に目を凝らし、その息づかい、祈りに耳を澄ましていただければ幸いです。

2002 年7月 財団法人 アイヌ民族博物館


関連書籍

ポロチセの建築儀礼

 1997年、ポロチセの建設に伴って実施された20回におよぶ儀式の報告書。
 豊富なカラー図版とともに巻末に儀礼具や儀礼の進行、用語解説,索引等を付けました。

2000.3.31発行。A4判196頁(内カラー100頁)。
ISBN 978-4-903925-13-4


アイヌのイクパスイ

 昭和17年に日本で刊行されたフォスコ・マライニ著『Gli ikubashui degli Ainu』を邦訳したもの。

1994.12.1発行。B5判176頁。箱入上製本。
ISBN 978-4-903925-22-6

祈り[イノミ]

 アイヌにとっての神は、私たちが神社や教会で祈る神とはずいぶん違います。囲炉裏で燃える火も神ですし、家のまわりに立つ一本一本の木も神、家自体も神です。アイヌの考えでは、あらゆるものに魂が宿っていて、なかでも動物や植物など人間に恵みを与えてくれるもの、火や水、生活用具などのように人間の生活に欠かせないもの、あるいは地震や津波など人間の力が及ばないものをカムイ[神]と呼んで敬いました。
 昔の暮らしは自然と直接向き合っていましたから、衣食住のすべてにわたってものをいうのは自然界と協調する能力でした。自然界の神々と仲違いしては食べ物も得られず、災害に見舞われ、生きてゆくことができません。

 たとえば猟に出かけた先で一頭のクマに出会ったとします。クマはアイヌにとってもっとも偉い神のひとつです。人間が矢を射かけても、クマ神がその矢を受け取って(矢に当たって)くれなければ、獲物が得られないばかりか、逆にクマに襲われて命を落としかねません。アイヌは、クマ神が矢を無事に受け取ってくれるかどうかは、弓矢の技術もさることながら、その人間がクマ神から好かれているかどうかにかかっていると考えました。

 では、クマ神から好かれるためにはどうしたらいいのでしょうか。

 神々が住む世界をカムイモシリ[神の国]といいます。クマ神の国は山奥にあって、そこでは人間と同じ姿をし、人間と同じような生活をしているのですが、そこは霊の世界ですから私たちの目には見えません。人間の前に姿を現すとき、クマ神は黒い着物をまとってアイヌモシリ[人間の国]へやってきます。それが私たちが目にするクマだというわけです。

 クマ神が人間の前に姿を現すのは、人間と交易をするためだと考えられていました。クマ神にとっての商品は自分がまとう着物(毛皮や肉)です。クマ神は心がけが良さそうな人間を見つけて着物(毛皮や肉)をもたらし、神々が作ることができないイナウ[木幣]や酒を人間から手に入れ、宝物にすると考えていました。人間は客(獲物)となってくれたクマ神を盛大にもてなし、それらたくさんの土産を持たせてクマ神の霊を神の国へ送り返します。そのもてなしがカムイノミ[神への祈り・儀式]というわけです。

イオマンテ[熊の霊送りの儀式]

 アイヌは交易の民だとも言われています。アイヌは自然界の神々との「交易」によって得た毛皮などを元手に和人などと交易し、アイヌが自ら作ることができない漆器などを手に入れ、それを宝物としていました。したがってアイヌと自然界の神々、アイヌと和人ら異民族の関係は本来、対立関係ばかりでなく互いに依存しあう対等な関係として捉えられていたのです。その関係もやがて、時代を下るにつれ対等とは言えなくなりましたが、民族と民族、人間と自然がパートナーとして共存しなければならないことは今も変わらぬ真理です。そのための一つの方便がアイヌの信仰なのだということもできます。
 以上はイノミ[祈り]の一側面に過ぎません。イオマンテに代表される霊送りや葬送、先祖供養、豊漁・豊作祈願、新築祝い、魔払いなどのさまざまな儀礼が年間をとおして数多くあり、儀礼にともなう神への祈りが日常的におこなわれていました。

 儀式の母胎となるアイヌの集落共同体「コタン」が消滅して以来、儀式も衰退の一途をたどってきましたが、まったく失われたわけではありません。昨今はシンヌラッパ[祖先供養祭]、アシリチェプノミ[初鮭を迎える儀式]などが各地で復活し、儀式復興の動きが活発になっています。当館でもイオマンテ[飼い熊送りの儀式]、コタンノミ[春秋の集落の儀式]などの儀礼伝承に力を注いでいます。


火の神への祈り

 火の神は、胆振・日高地方では女神と考えられていて、アペフチカムイ[火の女神]、モシリコロフチ[国土を領する女神]、イレスフチ[子育ての女神]などの名で呼ばれます。また、アペメルコヤンマッ・ウナメルコヤンマッ[火の輝きが(炉辺)に寄り上がる女神、灰の輝きが(炉辺)に寄り上がる女神]という長い名前ももっています。
 火は実生活上重要であることはいうまでもありませんが、アイヌの信仰において特別な地位を占めています。儀礼において真っ先に祈るのは火の神ですし、儀礼の最後に祈るのも火の神です。火の神は、人間の言葉の足りないところを補い正し、案件を吟味した上で所定の神へと伝えてくれます。また、神酒や供物も、火の神をとおして神の国へ届けられることになっています。すなわち人間と神々との仲介役です。火なくして祈りは成立しないというアイヌの古老もいます。

 ただ、人と神との間には火の神だけが介在するものではなく、火の神が直接伝令に走るとも考えられていません。祈り手は自分の憑き神の力を借りて祈り、祈り手の周辺ではイナウ[木幣]やヌサ[祭壇]、トゥキ[酒杯]、イクパスイ[捧酒箸]などの儀礼具、エムシ[儀刀]やサパウンペ[幣冠]などの礼装などがそれぞれ霊的役割をもって人間の祈りを助けます。また、火の神の周辺では煙や火の粉、火の神の配下神であるスワッ[炉鉤]、イヌンペサウシペ[削り台]、宝物に宿る神々などが協力し、神の国でも直接間接に様々な神々を経由して最終目的地となる神の許へ祈り詞や酒、供物が届へくと考えられているのです。

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